- 著者
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棚沢 一郎
永田 真一
二宮 淳一
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 試験研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 1993
本研究は、多細胞生体組織を凍結し、液体窒素温度(-196℃)で長期間保存したあと、解凍して蘇生させる技術の確立を目的とするものである。単細胞のように寸法の小さい生体組織の場合には、生体組織を直接に液体窒素中に浸漬することにより、急速凍結が行われ組織がガラス化するため、凍結保存は比較的容易である。実際、赤血球・精子・卵細胞・骨髄などの凍結保存はこのような方法により成功している。しかし、もっと寸法の大きな多細胞組織の場合には、急速凍結は不可能であり、また全体を均一に冷却することも難しい。本研究では、ある程度の大きさを持つ多細胞組織を、緩慢凍結によって保存する技術を確立させるための実験および解析を行った。まず、本研究者らがこれまでに行ってきた微小生物の凍結保存に関する実験の継続として、ミジンコ(淡水棲プランクトンの一種)を行い、冷却凍結速度・加熱解凍速度・凍害防御剤の種類と濃度などの主要パラメータを適切に選定することにより、凍結保存が可能であることを確認した。これに引続いて動物の血管の凍結保存実験を行った。試料としては、主としてラットの大動脈を使用したが、他にイヌの大動脈・ブタの頚動脈も用いた。これらの試料について凍結保存の最適条件を決定した。凍結保存後の生死判定は、まず外観検査、続いて細胞培養を試み、(ラットの場合)最終的には同種ラットへの再移植を行った。現在までに32匹のラットに移植し、内8匹以上が1週間以上生存した。解剖により移植した血管が健全な状態であることを確認した。以上のような実験と並行して、細胞の凍結過程の数値シミュレーションを行い、諸因子の影響について考察した。