著者
二木 雄策
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.117-147, 2016-02-25 (Released:2019-05-17)
参考文献数
5

交通事故による損害賠償の一環である逸失利益は,通常,被害者の平均年収(=基礎収入)に5%のライプニッツ係数を乗じて求められている。このような算定方式は果たして公正な結果をもたらすものなのだろうか。 第一に,この方式は計算を簡略にするための近似法によるものなので,得られた金額の多寡は必ずしも正確なものではない。そればかりか,この方式では逸失利益の男女間格差が実態以上に拡大されるなど,無視できない質的な誤差をも含んでいる。 第二に,この方式では逸失利益が,金銭の貸借や手形割引などと同じように,将来の「カネ」と現在の「カネ」との関係として捉えられている。しかし逸失利益というのは被害者が生産できるはずだった将来の「モノ」を現在の「カネ」で評価した金額なのだから,それを算定するためには,利子率だけではなく,「モノ」の価格(=物価)の変化をも考慮しなければならない。まして両者の値は,過去の統計が示すように,密接な関係にある。それにも拘わらず現行の算定方式では利子率だけが採り上げられ生産物の価格変化という視点は抜け落ちていて,その結果,被害者は大きな不利益を蒙ることになっている。 逸失利益は公正なものでなければならないのだから,現行の算定方式は,少なくともこれらの点については,修正されなければならない。
著者
二木 雄策
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-25, 2014-05-25 (Released:2019-07-21)
参考文献数
9

交通事故における死亡慰謝料は金額で表示されるが,被害者の被った精神的・肉体的苦痛というのはもともと金銭で評価できるものではない。そこで実際には裁判所がその額を決定しているのだが,それがどのような根拠で算定されたかは不分明のままである。しかし損害賠償金は公平かつ適正なものでなければならないのだから,慰謝料額の背後には何らかの論理があってしかるべきだろう。 本稿では被害者が死亡した交通事故についての過去の判例(44年間に亘る1962例)を資料として,それらに統計学的な方法,とりわけ回帰分析を適用することで,慰謝料の「計量分析」を試みる。それによって,交通事故の損害賠償ではその重点が逸失利益から慰謝料に徐々に移って来たこと,慰謝料の額が平準化してきたこと,その決定要因が規則性を持ち始め,とりわけ近時では加害者の言動や責任の度合いが重要な決定要因となっていること,等が示される。
著者
二木 雄策
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-25, 2014

<p> 交通事故における死亡慰謝料は金額で表示されるが,被害者の被った精神的・肉体的苦痛というのはもともと金銭で評価できるものではない。そこで実際には裁判所がその額を決定しているのだが,それがどのような根拠で算定されたかは不分明のままである。しかし損害賠償金は公平かつ適正なものでなければならないのだから,慰謝料額の背後には何らかの論理があってしかるべきだろう。</p><p> 本稿では被害者が死亡した交通事故についての過去の判例(44年間に亘る1962例)を資料として,それらに統計学的な方法,とりわけ回帰分析を適用することで,慰謝料の「計量分析」を試みる。それによって,交通事故の損害賠償ではその重点が逸失利益から慰謝料に徐々に移って来たこと,慰謝料の額が平準化してきたこと,その決定要因が規則性を持ち始め,とりわけ近時では加害者の言動や責任の度合いが重要な決定要因となっていること,等が示される。</p>