- 著者
-
五十嵐 和彦
- 出版者
- 一般社団法人 日本心身医学会
- 雑誌
- 心身医学 (ISSN:03850307)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.4, pp.343-349, 2017 (Released:2017-04-03)
- 参考文献数
- 18
細胞種特異的なDNA情報の発現は, 主にヒストンやDNAの化学修飾と転写因子によって制御される. 特に化学修飾による調節は比較的安定な変化をもたらすため, しばしばエピジェネティクスと呼ばれる. Rett症候群など先天性の疾患やがん細胞ではエピジェネティクス変化を伴うことから, エピジェネティクスと疾患の関連も注目されている. ヒストンのアセチル化は中間代謝物のアセチルCoAを, ヒストンやDNAのメチル化はS-アデノシルメチオニン (SAM) をそれぞれ化学基の供与体とすることから, これら修飾反応と代謝や栄養との関連が注目を集めつつある. SAM合成酵素の一つであるMAT2 (methionine adenosyltransferase 2) は転写因子MafKやBach1, そしてヒストンメチル化酵素と複合体を形成し, 酸化ストレス応答を抑制することから, このような酵素複合体はメチオニン代謝系とエピジェネティクス系の共役機構を成していると考えられる. 近年, 胎生期の栄養状態により成人病などの発症が影響を受けることから, 栄養とエピジェネティクスの関係が注目されているが, その分子病態は明らかではなく, さらなる研究が必要である.