著者
井上 昌彦 若山 吉弘 野本 和彦 自見 隆弘
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.30-34, 1998-02-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
10

鏡像書字 (mirror writing) の出現機構, 責任部位は現在のところ不明であるが, 本態性振戦患者やパーキンソン病患者で高頻度にみられることから, 視床との関連を示唆する報告がある.今回, 脳卒中患者において, 視床と他の病変部での鏡像書字の出現率を調査し, 健常人および他の神経疾患患者での出現率と比較・検討した.対象は脳卒中31名 (視床10名, その他21名) , パーキンソン病34名, 本態性振戦18名, 健常人84名で計167名である.Mini-Mental Stateテストを施行し, 痴呆患者は除外した.それぞれ右手および左手で名前, 数字, アルファベット, 時計の図等を書かせた.書かれた文字の50%以上が鏡像パターンの場合を陽性とした.鏡像書字は, 脳卒中12.9% (視床10%, その他14.3%) , パーキンソン病26.5%, 本態性振戦33.3%, 健常人8.3%にみられた.パーキンソン病患者, 本態性振戦患者で頻度が高いことは過去の報告とほぼ一致したが, 脳卒中患者では視床と他の病変部位で, 鏡像書字の出現率に明らかな差を認めなかった.