著者
井元 りえ
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

【目的】西オーストラリア州の家庭科のカリキュラムと授業の内容を分析し、日本の家庭科と比較検討し、日本の家庭科の発展に資することを目的とする。 【方法】2012年9月に、オーストラリア、パースで以下の2つの調査を行った。(1)西オーストラリア州政府のDept Education and TrainingのMs. Yates Marilynを訪問し、家庭科教育行政について聞き取り調査、(2)Belridge Senior High SchoolのMs. Girvan Lynetteを訪ね、高等学校の家庭科の現状を調査(インタビュー調査及び授業見学)。それらの内容を日本の家庭科と比較検討する。 【結果及び考察】 (1)オーストラリアでは従来の州毎のカリキュラムが、全国統一カリキュラム(National Curriculum)に変わりつつある。すでに、4つの教科(History, Mathematics, English, Science)で全国統一カリキュラムが実施されている。家庭科(Design and Technology)の新しいカリキュラムは、アドバイザリーグループ(advisory panel)が作っている最中である。家庭科の中にdigital technologiesを含むことも課題となっている。 現在の西オーストラリア州の家庭科のカリキュラムは、例えばYear 11 – 12 (16 -17歳)(日本の高校2,3年生に当たる)では、学習内容に、「Stage1 UNIT 1AF」というように番号がふられて、分かれており、ひとつのUNITを1学期(semester)で学ぶことになっている。生徒によって学ぶ内容が異なり、A1~2を学ぶ生徒もいれば、Bを学ぶ生徒もいる。Year12の最後にはテストがある。 (2)ベルリッジ高等学校を訪問し、Lyn Girvan先生に家庭科の授業を見せて頂いた。 この学校のカリキュラムは、以下の通りである。 ・8年生(13歳)1学期(週に2時間、20週)、2学期(別のグループの生徒が同じ授業を受ける) 10週 食物、10週 被服(ミシンを用いたピローケース作り、ミシンを用いたペンケース作り、手   縫いのフェルトマグネット) ・ 9年生 1学期(週に2時間、20週)食物 ・ 10年生 3つのコースから選択(1年間に40週)(1)食物と文化、(2)職業における食品、(3)家族、地域と自分。3つすべてを選んでも良い。 ・ 11, 12年生 3つのコースから選択(週に4時間、1年間32-35週) 職業体験と卒業試験があるため、授業を行う週の数が少ない。 1)「食物・科学・技術」の中の「ホスピタリティー」と「製品」 2)「子ども・家族・地域」 実際の授業では、講義と実習を見学できた。講義は「子ども・家族・地域」の学習として「育児について」、調理実習は「梨のタルト」と「スパゲティー・カルボナーラ」の学習、被服実習は、「ペンケースづくり」と「ドレスづくり」を見学した。日本では、実習の場合2時間をとって行うが、本校では1時間で行っていたため、時間が短く、実習だけで終わってしまっていた。理論は別の時間に教えているということだが、理論と実践の学習をどのように関連させるのかが難しいのではないかと感じた。 「ドレスづくり」は大変高度な被服製作技術が必要な授業であった。日本では、高校の専門科目で行われているような内容であった。また、育児についての講義では、教師が作成したワークシートに沿った自主的な調べ学習が中心となっていた。 また、家庭科室に掲示してあった食品群別摂取量の目安については、パン・穀物が5+、野菜が4、果物が3、牛乳・乳製品が2、肉・それに代替できるものが2、嗜好品が2以下、とされていた。日本と比べると、果物の量が多いことと、嗜好品も載せていることが違いである。 なお、最近、Stephaney AlexanderのKitchen Garden Programというのがオーストラリア全国で盛んに行われており、本校の生徒も近くの小学校で児童と共にその活動をしたということである。このプログラムは、2001年に始まったもので、現在全国267校が参加している。 日本の家庭科においても、農産物の生産に関する学習を取り入れたりする試みもあるが、このように全国的な取り組みはないので、注目に値する。食生活に関する教育では、このような生産に関する教育が環境教育の視点から非常に重要だと考えられる。
著者
神保 夏美 井元 りえ
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.119-132, 2019 (Released:2019-03-21)
参考文献数
60

本研究は, 食器と食物との関連についての諸外国と日本の研究動向を, 文化的影響を含めて比較することを目的とした. 研究方法は, 文献レビューによって得られた対象研究47件について, 1) 研究目的および主な調査項目, 2) 食器の検討要素, 3) 食器の提示方法に関して分類し比較を行った. 主な結果は次のとおりである. 1) 研究目的および主な調査項目については, 諸外国の研究では, 食器と「食物・食事の量」との関連の検討を目的とした研究が多かった. これは, 国際的な肥満者の増加の問題が背景にある. 日本の研究では, 食器と「食物・食事の質」との関連の検討を目的とした研究が多く, 特に「食欲」「おいしさ」について外観だけで調査したものが多かった. 2) 食器の検討要素については, 諸外国の研究では食器の「サイズ」と「食物・食事の量」との関連を検討した研究が特に多く, 日本の研究では食器の「色」と「食物・食事の質」との関連を検討した研究が特に多かった. また, 他の日本の研究の食器の検討要素には, 和食の文化的特徴が表れていた. 3) 食器の提示方法については, 諸外国の研究では, 「実物」が大半を占めたのに対し, 日本の研究では, 「写真/画像」が多かった. 考察として, 諸外国と日本における食器と食物との関連についての研究目的および方法は, 社会的・文化的な影響を受け, 異なることが示唆された.