著者
遠藤 徹 井原 正昭
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.340-345, 1985-09-01

ゲルを用いるアイソザイム検出に際し,緑葉に対して用いる抽出剤の組成としての緩衝液(0.5M トリスー酢酸 PH7.5),中性洗剤(10% トリトン X-100),塩(0.5M 食塩),酸化防止剤(0.2M アスコルビン酸)およびフェノール吸収剤(ポリビニールポリピロリドン)について,その単独および複合効果を調査した.用いた材料はシダ植物(イノモトソウ)裸子植物(ソテツ,イチョウ,クロマツ,コウヤマキ,ヒノキ,イヌマキ,カヤ),双子葉植物(ツクバネガシ,ヤブニッケイ,ヒメカンアオイ,ツバキ,オオシマザクラ,フジ,マサキ,アオキ,キョウチクトウ)および単子葉植物(ミヤマエンレイソウ, ニホソイネ, ケンチャヤシ)の生葉100mgで,ザイモグラムとして検出した酵素種はパーオキシターゼとリンゴ酸脱水率酵素である. パーオキシターゼの場合,6種の抽出剤に対して少なくとも4群に分類できる.第1群はコウヤマキなどどの抽出剤でも同じようたザイモグラムが得られるもの,第2群は抽出剤成分の種類の増加につれてアイソザイムバンド数が増加するもの,第3群は逆にバンド数が減少するもの,第4群はアオキで6種の抽出剤のいずれを用いても抽出が極めて困難なものなどである.リンゴ酸脱水素酵素の場合は6群に分類できる.第1群はカヤとイネの2種である.第2群はイチョウ1種だが緩衝液を含む抽出剤を用いれば同じようなザイモグラムが得られる.第3群はクロマツなどで中性洗剤を含む緩衝液の抽出剤では同じようたザイモグラムが得られる.第4群は中性洗剤と酸化防止剤を含む緩衝液の抽出剤で同じようなザイモグラムが得られる.第5群は抽出剤の成分数の増加に応じて一般にバンドが増加するもの,第6群はパーオキシターゼの場合と同じくアオキで,用いた抽出剤の組成ではほとんど抽出困難な場合である. 以上の結果から,生体内におけるアイソザイムの存在様式ないし保持機構は植物種ごとに多かれ少なかれ異なり,例えば水でほとんど全部を抽出し得る場合から上記のすべての薬剤を投入しても抽出困難な場合まである.すなわち,アイソザイムにおける分化と同様,その保持機構もまた分化していると推論できる.