著者
河合 渓 山口 志織 井手 名誉 五嶋 聖治 中尾 繁
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.105-112, 1994-08-31
被引用文献数
4

北海道北東部に位置するサロマ湖において1990年12月から1993年10月にかけてヒメエゾボラNeputunea arthriticaの生殖周期, 寄生虫による感染個体の割合とこれらの個体の生殖腺発達について検討を行った。組織学的観察により生殖腺と貯精嚢の発達過程を卵巣と精巣は4期, 貯精嚢は3期に区分した。その結果, 雌雄共に1年を周期とした生殖周期が示された。発達過程は卵巣で8月∿11月が回復期, 10月∿4月が成長期, 4月∿7月が成熟期, 5月∿8月が放出終了期であり, 精巣は4月∿5月が回復期, 4月∿7月が成長期, 8月∿12月が成熟期, 11月∿4月が放出終了期であった。また, 貯精嚢は7月∿8月が休止期, 9月∿12月が貯留期, 4月∿6月が放出終了期であった。その結果, 交尾期は4月∿8月, 産卵期は5月∿8月と推定された。また, 雌では放出終了期の個体の割合が非常に低いことが示された。寄生虫に感染した雌個体は生殖巣指数(GSI)の値が周年にわたり非常に低く, 生殖腺はほとんど発達していないと考えられる。一方, 感染雄個体のGSIは低い値を示しているが, 非感染個体のGSIの周期と同調した傾向を示しており, 寄生虫に感染しても生殖腺は発達すると考えられる。寄生虫感染個体の割合を湖内各地で調べたところ, 感染率は0%から60%と様々であったが, 全域の感染率は3.7%と低い値を示した。これらの結果から, 寄生虫の感染はヒメエゾボラの生殖腺の発達に影響を与えているが, 湖全域での産卵抑制の主要な原因にはなっていないと考えられる。