著者
長嶋 俊介 野田 伸一 日高 哲志 河合 渓
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

前年度チューク環礁での予備調査に続き、本予算で2度の現地調査を行った。特に小島嶼における環境変動に絞った調査で、チューク環礁本島のウエノ島の他、ピス島、ロマヌム島、ファラパゲス島で、海岸部陸域、海域、環境衛生、社会変動、社会不安、生産基盤と文化・社会の持続可能性問題について調査を行った。社会面では、グローバリゼーションの与える変動は主島のみでなく、属島部でも顕著で、グアム・ハワイ・米国本土への出稼ぎ・送金、また金銭経済的消費習慣の村落経済への浸透が食生活面に及びつつある。今後の情報化・電化・耐久消費財浸透の始動以前の2006年段階の諸事実を、現地で補足しておけたことは意義深い。またかかる社会変動に関わる不安感も、文化・ライフスタイル面で観測されたが、島のアイデンティティ面にまでは及んでいない。生産面での、持続可能性に関わる危機意識は強く、人口過剰意識・自然環境危機意識もみられた。後者では、台風、海進、異常高温に関して強い経験に裏打ちされた危機意識であり、その近年における諸事実を確認した。海進でのタロパッチ被害(未回復)箇所、海岸部浸食箇所、磯焼け被害等について精査し、その現状捕捉も行った。例えば、温暖化に伴い珊瑚礁の白化した場所は各所に観察され、温暖域に棲息する貝類(シャコガイ類やカサガイ類)も多く分布しており、何らかの影響が起こっていると考えられる。エルニーニョ被害時の高温・磯焼け、ラニーニャ被害時の海進、異常台風時の塩害は、甚大且つ加速化しつつある。それら事実のさらなる、体系的・総合的・現地との協働による記録化体制の確立は急務である。現地での危機管理対応や、関係機関共同での研究体制の確立、センサゾーン確立に向けての話し合いを、グアム大学ミクロネシア地域研究センタースタッフなどとグアム大学で行うと共に、鹿児島大学で韓国海洋研究院(チューク環礁に調査研究所を保有する)、グアム大学上述スタッフ及び気候専門家、南太平洋大学漁村海岸域資源管理専門家と共に、今後の体制確立について話し合い、その上で国際シンポジウム、Climate Changes and Globalization-Environment and People's Life in the Pacific Islands-を、一般にも公開にして行った。その成果は、南太平洋海域調査研究報告No.48(総頁78)として英文で刊行し、現地関係者並びに関係機関に配布した。
著者
河合 渓 山口 志織 井手 名誉 五嶋 聖治 中尾 繁
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.105-112, 1994-08-31
被引用文献数
4

北海道北東部に位置するサロマ湖において1990年12月から1993年10月にかけてヒメエゾボラNeputunea arthriticaの生殖周期, 寄生虫による感染個体の割合とこれらの個体の生殖腺発達について検討を行った。組織学的観察により生殖腺と貯精嚢の発達過程を卵巣と精巣は4期, 貯精嚢は3期に区分した。その結果, 雌雄共に1年を周期とした生殖周期が示された。発達過程は卵巣で8月∿11月が回復期, 10月∿4月が成長期, 4月∿7月が成熟期, 5月∿8月が放出終了期であり, 精巣は4月∿5月が回復期, 4月∿7月が成長期, 8月∿12月が成熟期, 11月∿4月が放出終了期であった。また, 貯精嚢は7月∿8月が休止期, 9月∿12月が貯留期, 4月∿6月が放出終了期であった。その結果, 交尾期は4月∿8月, 産卵期は5月∿8月と推定された。また, 雌では放出終了期の個体の割合が非常に低いことが示された。寄生虫に感染した雌個体は生殖巣指数(GSI)の値が周年にわたり非常に低く, 生殖腺はほとんど発達していないと考えられる。一方, 感染雄個体のGSIは低い値を示しているが, 非感染個体のGSIの周期と同調した傾向を示しており, 寄生虫に感染しても生殖腺は発達すると考えられる。寄生虫感染個体の割合を湖内各地で調べたところ, 感染率は0%から60%と様々であったが, 全域の感染率は3.7%と低い値を示した。これらの結果から, 寄生虫の感染はヒメエゾボラの生殖腺の発達に影響を与えているが, 湖全域での産卵抑制の主要な原因にはなっていないと考えられる。
著者
河合 渓 西村 知 小針 統
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

人と自然の関係を解明するため海洋生物学、海洋学、経済学という異なる視点から解明を進め、各成果を金銭化することで各研究を有機的に融合する学融的研究の試みを行った。3年間の調査において西村知は経済社会学的視点を持ち調査を行った。西村知は主にキャッサバを通して農村社会システムを捉えると共に、地域社会を住民参加型プロジェクトと比較しその社会システムを捉えた。一方、小針統、河合渓は理系的視点を持ち調査を行った。小針統は環境条件とプランクトンと魚類相を、河合渓は貝類の調査と総括を主に行った。この調査の3年間の結果は3回の学会発表と4編の学術論文としてすでに発表し、現在いくつかの項目については論文の準備中である。また、調査開始時から情報公開としてホームページを立ち上げその成果を公開した(http://cpi.kagoshima-u.ac.jp/project-fiji.html)。これらすべての成果は平成20年2月3日にシンポジウムという形で報告会を行った。本プロジェクトは南太平洋大学とフィジー水産研究所をとおして地元地域社会へと還元を行っており、大きな社会貢献ができつつあると考えられる。