著者
井樋 慶一
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

脳内最大のノルアドレナリン(NA)作動性神経核である青斑核(LC)を選択的に破壊する方法を開発しこのマウスモデルを用い不安様情動応答を対照動物と比較検討することにより、LCが不安情動の成り立ちに関与するという仮説を検証した。ドパミンベータ水酸化酵素プロモーター-ヒトインターロイキン2受容体(hIL2R)トランスジェニックマウスの青斑核にイムノトキシン(抗hIL2R-緑膿菌体外毒素)を微量注入することにより青斑核のみで選択的にNAニューロンを破壊した。このマウスのLC内イムノトキシン注入1週後にLC-NAニューロンの細胞体は消失し主要な投射領域でのTH免疫陽性軸索も著明に減少した。3週後にLC破壊マウスでは高架式十字迷路でopen arm滞在時間、open arm進入回数/総進入回数比が有意に減少したがclosed arm進入回数は対照群と有意差を認めなかった。open-fieldでは中央区画滞在時間、中央進入回数/区画間総横断回数比が有意に減少したが区画間総横断回数には対照群と有意差を認めなかった。強制遊泳試験ではLC破壊群で顕著に無動時間が延長した。実験終了後脳部位毎にカテコールアミン含量をHPLC-ECD法で定量したところ、嗅球、大脳皮質、海馬、小脳では対照と比較し90%以上のNA含量低下が認められた。視床下部では有意の変動が認めらなかった。その他の部位では領域により様々な程度のNA含量の減少が認められた。ドパミン、セロトニン含量に関してはいずれの領域においてもLC破壊群と対照群の間に著しい差異は認められなかった。これらの結果から、LC破壊3週後のマウスで不安様行動とうつ様行動が増加することが明らかとなった。マウスを用いた実験によりLC-NAニューロンが不安やうつ病と深く関わることがはじめて明確に示された。
著者
井樋 慶一 須田 俊宏
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

アセチルコリン(ACh)は脳内の代表的神経伝達物質であるが,ACh作動性ニューロンは視床下部室傍核(PVN)のcorticotropin-releasing factor (CRF)産生細胞の近傍に神経終末を形成している。PVNにおいてAChがCRFの合成,分泌に及ぼす影響を明らかにするために,無麻酔ラットを用い,脳内微量注入法により直接PVN内にAChを投与し,Northern blot法を用いてPVN内CRFmRNAおよび下垂体前葉(AP)内proopiomelanocortin (POMC)mRNAの定量を行った。同時に末梢血中ACTHの変化を検討した。さらにAChの作用がいかなる受容体を介して発現するかを明らかにした。1.無麻酔ラットPVN内ACh (1-100pmol)投与後血中ACTHは用量反応性に増加し,30分で頂値を示し,120分で前値に復した。2.PVN内ACh投与後120分でAP内POMCmRNAおよびPVN内CRFmRNAはACh (0.1-10pmol)用量反応性に増加した。3.脳室内アトロピン前投与により,PVN内ACh投与による血中ACTH増加は抑制されたが,ヘキサメリニウム前投与により抑制されなかった。以上の結果は,PVNにおいてAChがCRFの合成および分泌を刺激することを強く示唆するものであり,ACh作動性神経路がCRFニューロンに対する刺激性の調節系であるころが明らかとなった。またAChの作用はムスカリン受容体を介することが明らかとなった。