著者
葛谷 雅文 長谷川 潤 榎 裕美 井澤 幸子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.170-176, 2015-04-25 (Released:2015-05-19)
参考文献数
9
被引用文献数
4

目的:要介護認定を受け,在宅療養中の高齢者のコホートを利用し,栄養摂取方法ならびに食形態をサーベイし,その背景の比較を行うと同時に,3年間の縦断調査により,生命予後,入院への関連につき検討した.方法:名古屋市在住の高齢者を対象にした前向きコホート縦断研究(The Nagoya Longitudinal Study of Frail Elderly;NLS-FE)の参加者のうち,食事摂取状況が把握できた1,872名(平均年齢:80.6±7.7(SD)歳,男性:33.8%)を解析対象とした.研究開始時の基本的ADL,要介護度,併存症(Charlson Comorbidity Index)などの患者背景ならびに栄養摂取方法ならびに食形態を調査し,さらに3年間前向きに種々のイベントに関して縦断的調査を実施した.結果:登録時に経口摂取が可能な対象者は1,786名で,食事内容は普通食1,487名(79.5%),それ以外の経口摂取(介護食)299名(全粥食,ミキサー食など)であった.経管栄養使用者は82名(4.4%),静脈栄養は4名(0.2%)であった.介護食使用者では明らかに普通食摂取者に比較し要介護度が高く,経管栄養使用者ではさらに要介護度が高く,要介護5と認定されている対象者が84.1%にも及んだ.普通食に比較し,介護食,経管栄養利用者の順にADLは低下し,認知症,脳血管障害の有病率は増加した.3年間の観察期間に1,872名中453名(24.2%)が死亡し,798名(42.6%)が少なくとも一度の入院を経験していた.肺炎が主な死因であったのは103名(5.5%)で,肺炎により入院したのは155名(8.3%)であった.Cox比例ハザードモデルでは普通食摂取に比較し,ADLを除く調整では介護食,経管栄養使用者では死亡,入院リスクが有意に高値であったが,ADLを調整因子に加えるとその有意な関係は消失した.一方肺炎による死亡ならびに入院リスクに関してはADLを調整因子として投入しても,介護食,経管栄養使用者では有意なリスク(入院は経管栄養のみ)となっていた.結論:介護食,経管栄養利用者は肺炎死亡のリスクが高いことが明らかとなり,日ごろから適切な食事介助,口腔ケアなどの予防が重要である.
著者
榎 裕美 杉山 みち子 井澤 幸子 廣瀬 貴久 長谷川 潤 井口 昭久 葛谷 雅文
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.547-553, 2014-11-25 (Released:2015-02-26)
参考文献数
24
被引用文献数
6

目的:本研究の目的は,神奈川県および愛知県において構築したコホート(the KANAGAWA-AICHI Disabled Elderly Cohort(KAIDEC))の横断研究として,在宅療養高齢者の栄養障害の要因を明らかにすることである.対象および方法:対象は,KAIDEC Studyに登録された居宅介護支援事業所の居宅サービス利用者1,142名(男性460名 女性682名 年齢81.2±8.7歳)である.登録時の調査は,要介護度等の基本情報,低栄養評価(Mini Nutritional Assessment short form:MNA®-SF)および摂食・嚥下障害(Dysphagia Severity Scale:DSS)の状況等の調査を実施した.慢性疾患については,疾患別に分類し,さらに併存症の指標であるCharlson Comorbidity Indexを用いて点数化を行った.MNA®-SFの3群間の比較は,χ二乗検定および一元配置分散分析を行い,栄養障害の要因分析は,MNA®-SFを二分変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った.結果:MNA®-SFによる低栄養のスクリーニング結果は,栄養状態が「良好」と評価されたのは全体の27.8%,「低栄養のリスクあり」は55.4%,「低栄養」は16.7%であった.二項ロジスティック回帰分析(「低栄養」とそれ以外の二項)の多変量解析の結果,低栄養と関連する有意な因子は,ADLが低い,過去3カ月以内の入院歴がある,摂食・嚥下機能の低下,認知機能低下の因子であった.また,訪問診療および訪問介護の利用との関連も認められた.結論:居宅療養高齢者の低栄養は,ADL,入院歴,認知機能,摂食・嚥下機能との関連が強く認められた.