著者
山澤 和子 荒井 七海 井田 有香 稲垣 花歩 犬飼 陽南子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 2019年度大会(一社)日本調理科学
巻号頁・発行日
pp.128, 2019 (Released:2019-08-26)

【目的】昨今,緑茶は利便性の高い加工飲料の頻用が一般化し,日本の緑茶文化「急須でお茶を淹れ風味を味わいながら寛ぐ」に接する機会は減少してきている。愛知県の伝統工芸「常滑焼」産地では「常滑焼急須で淹れた緑茶は苦渋味が弱く,口当たりがまろやかで美味しい」と言い継がれている。本報告は,急須材質が緑茶浸出液の呈味成分含量に及ぼす影響について検討した。【方法】試料緑茶葉:1mmの篩上の煎茶葉(静岡県産)を用いた。急須:容量500ml程度の常滑焼(赤(A)および黒(B))・有田焼(C)・鉄製(D)・銅製(E)・ステンレス製(F)・ガラス製(G)を用いた。緑茶浸出液の調製:AからGの急須に,試料緑茶葉 2gを入れ,85℃のイオン交換水100mlを注ぎ1.5分間浸出した後,濾過液を分析に供した。成分分析:ポリフェノール(PP)量は酒石酸鉄法,抗酸化能はDPPH法,アミノ酸量はニンヒドリン比色法で測定した。なお,糖量は糖度,有機酸量はpH値で検討した。【結果および考察】A とDで淹れた浸出液100ml中のPP量(73mg)は,その他急須の場合に比し顕著に少なかった。これはPPが急須材質中の鉄と結合体を形成した結果と推察され,苦渋味が弱まる一因と考えた。ラジカル消去能はPP量の多少と概ね同傾向であった。アミノ酸量は,Dで淹れた場合が最も多く,A・BのそれらはDの約80%,Cでは約70%であった。糖量や有機酸量に著しい差はなかった。以上から,鉄を含む朱泥を原材料とする常滑焼急須で淹れた緑茶は,PP量の減少により苦渋味が弱まり,アミノ酸による旨味が程よく保たれて味質バランスが整ったことが「まろやかで美味しい」の評価と関係すると推察した。