- 著者
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井関 直政
長谷川 淳
羽山 伸一
益永 茂樹
- 出版者
- The Ornithological Society of Japan
- 雑誌
- 日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
- 巻号頁・発行日
- vol.51, no.1, pp.37-55, 2002 (Released:2007-09-28)
- 参考文献数
- 66
- 被引用文献数
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化学物質による野生鳥類の研究史についてわが国の取り組みを紹介した.ダイオキシン類の汚染が大きな注目を浴びた近年,それらの問題に向けた対策や技術は大きな社会現象にもなった.わが国における化学物質による野生動物への影響に関する研究は,未だ少ないのが現状である.著者らは,魚食性鳥類であるカワウに着目し,ダイオキシン類の体内残留レベルを明らかにすると共に,既報の日本産鳥類のデータと比較した.その結果,カワウは最も高濃度に蓄積する鳥種であった.またPCDD/Fs の残留パターンは, 2,3,7,8-置換体PCDD/Fsが優占し,WHO-TEF (birds) を用いた毒性値への寄与には,1,2,3,7,8-PeCDDや2,3,4,7,8-PeCDF,CB126が大きな寄与を示した.肝臓におけるこれらのコンジェナーは,筋肉や卵よりも特異に蓄積していた.カワウにおけるダイオキシン類の半減期を算出し,環境濃度から卵への濃度を予測した結果,孵化率への影響は1970 年代をピークに減少傾向であることが推察された.現在のダイオキシン類の曝露による未孵化率は27%と見積もられ,個体群の減少には影響しないことが結論づけられた.しかしながら,別のエンドポイントや免疫などの調査の必要性が考えられ,これらを遂行するための非捕殺的モニタリング手法など,カワウ個体群をリスク管理するための新たな取り組みが期待された.