著者
井関 睦美
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.215-221, 2012-08-01 (Released:2013-06-14)
参考文献数
27

アステカ王国は1428年から1521年まで,メキシコ盆地を中心に繁栄を極めた.その歴史の中でも,モテクソマ1世の治世(1440~1469年)は最も大きな社会変動期であった.1440年代には自然災害頻発し,1450年からの5年間,異常気象による大飢饉が続いた.食糧の備蓄は底をつき,疫病が蔓延し,多くの民衆がメキシコ盆地を去り,王国は存亡の危機に瀕した.これを機に,王国は旱魃被害の少ないメキシコ湾岸地方を攻略した.主都近郊では耕作地の開拓と水道橋建設を進め,災害対策を拡充した.また繰り返し起こる旱魃を理由に,伝統儀礼を再編し,メキシコ盆地における宗教的・政治的支配力を誇示する機会に利用した.その結果,アステカ王国は急速にその勢力を拡大していった.本稿では,異常気象の記録史料を近年の年輪気候学研究の成果と照合し,自然災害の社会的影響と王国の対応策を分析し,アステカ社会における環境認識の変容を考察する.