著者
今川 智美
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.39-58, 2018 (Released:2019-10-12)
参考文献数
31

本研究は、ヤクルトグループの営業手法「ヤクルトレディシステム」が、なぜ新興国市場の開拓に有効であるのかを、事例による探索から検討した。ヤクルトは戦後日本でヤクルトレディシステムと呼ばれる独自のマーケティング手法を確立し、その手法を活用することにより、世界十数か国で安定的な市場を獲得している。しかしながら、その理念的な適合性が注目されている一方で、ヤクルトレディシステムが「なぜ新興国市場で安定的に成功を収められるのか」という競争合理的側面は必ずしも明らかとなっているわけではない。ヤクルトグループが世界十数か国の新興国市場で成功を収めているのであれば、ヤクルトレディシステムという世界的にもユニークなマーケティング手法には、新興国固有の競争環境に適合する何らかの競争合理的な仕組みが存在していると考えるのが妥当であろう。本稿はこうした特殊な一事例を学術的な態度で分析することを通じて、その背後にある論理性を明らかにしようとするのである。本研究の分析は、新興国市場を特徴づける「制度の隙間(institutional voids)」がもたらす様々な問題を解決する手段としてヤクルトレディシステムを位置づけられることを明らかにした。これまで、制度の隙間が新興国の経済や企業の行動にどのような影響を与えているかはよく議論されてきたし、またその一つ一つの隙間に対してどのような策が有効であるのかも検討されてきた。しかし、様々な制度の隙間が総体として織りなすものとして各新興国市場をとらえたとき、そこで機能するものとしての事業システムがどのようなものであるのかは、必ずしも明瞭にはなっていないのが現状である。本研究ではその一つの解としてヤクルトレディシステムを提案し、「制度の隙間の諸条件によらず、安定的に運用可能なシステムであること」を分析の中からその理由として提案した。