- 著者
-
今満 亨崇
- 出版者
- 一般社団法人 情報科学技術協会
- 雑誌
- 情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
- 巻号頁・発行日
- vol.71, no.4, pp.147, 2021-04-01 (Released:2021-04-01)
私達は普段,様々なシステムを利用しながら業務を行っています。これらシステムは単体で動作するものも多いですが,システム間で連携するものや,データの再利用を前提としたものも一般的になってきました。学術情報の業界を考えてみると,論文を始めとする様々な知識・情報を効率よく,それも世界中に流通させることが大きな課題の一つです。昔から多くの取り組みが行われており,例えば図書館ではカード目録を整備したり,図書館間の協力関係を強化したりしてきました。とくに最近では,先述の背景もありwebベースのシステムを用いた取り組みが加速しています。効率よく情報を流通させるためには,標準的な技術の利用が欠かせません。開発者が別々の仕様でシステムを構築し,運用者がバラバラのルールでデータを整備している状況での不利益を想像してみてください。例えば図書館員の立場では,コピーカタロギングのようなデータの再利用には個々のサービスのデータ構造を理解する必要があります。webサービス提供側の立場では,データの再利用を促すための緻密なドキュメント整備が必要です。開発者の立場では,要件をゼロから考える必要があるため開発効率が上がらず,開発したものが顧客の要求とどれほど合致するかは開発が進まないと確定しません。本特集では,現在一般的に使用されている,もしくは利用が見込まれる,学術情報流通システムの標準化技術を主に紹介しています。まずは吉本龍司氏に本特集の総論として,標準化技術をどのように捉えているかシステム開発者の目線でご執筆いただくとともに,webの一般的な技術を広く紹介していただきました。そのうえで具体的なシステムを個別に見ていく構成としております。主に図書館情報システムで用いられる標準化技術については大向一輝氏,飯野勝則氏,片岡真氏,塩崎亮氏,村上遥氏にご執筆頂きました。耳馴染みのある技術も多いですが,海外の状況や学術情報流に親和性の高い一般的な技術も合わせて広くご紹介頂いております。機関リポジトリシステムで用いられる標準化技術については林正治氏にご執筆頂きました。ユースケースを交えて非常にイメージしやすくご紹介頂いております。また,機関リポジトリへデータ登録する際の“SWORD”の日本語解説は,他誌やインターネット上でもあまり無く,大変参考になります。デジタルアーカイブ関連では,近年話題のIIIFだけでなく,UnicodeやTEIについて永崎研宣氏にご執筆いただきました。また,時実象一氏には論文出版システムの標準化技術としてJATSを中心にご紹介頂いております。これらの2記事は標準化技術の紹介はもちろんですが,国際的な標準化技術の改善に貢献したり,日本独自の要件を追加したりすることの重要性も,経験を交えてご執筆頂けております。学術情報流通システムは,様々な技術の連携によって構成されています。単体のシステムに留まらないこの複雑さは,学術情報流通システム全体への理解を妨げる要因であり,一方で多くの理想を実現するための興味深い技術でもあります。本特集が,学術情報流通を支えるシステムへの理解を深め,仕様を策定する際の参考資料としてや,4月からシステムを担当される方の入門書としてご活用いただけますと幸いです。(会誌編集担当委員:今満亨崇(主査),光森奈美子,中川紗央里,野村紀匡,李東真)