著者
小守 友里恵 山田 忍 仙波 圭子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.16, 2010

【目的】経済状況の悪化により、日本の貧困率は15%となり児童扶養手当受給者は年々増加する一方、家計簿の売上げは2008年、前年比1割増で、やりくりへの関心の高さを反映していると言える。平成20年高等学校家庭科新学校学習指導要領においても、細やかな家計管理の学習が求められていることから、本研究は、高校生の高校生のライフマネジメントと金銭管理の関係を明らかにし、今の時代に求められている家計の教育をさぐることを目的とした。【方法】1.2008年12月に市販されていた家計簿23冊を入手し、記述内容を調査をした。2.市販家計簿の費目が生活実態を反映していることに着目し、高校生の個計の費目について検討した。3.「家庭基礎」の消費生活の授業で、費目に着目したワークシートを用い、「各費目の負担者」、「欲しい物があった時の消費行動」、「貯蓄目的」について分析した。【結果・考察】方法の3から得られた結果は以下の通りである。 費目の負担者については、「映画・娯楽」「書籍(漫画)」の自己負担が多かった。他の「飲食代」「携帯代」「化粧品」「洋服・靴」「文具・雑貨」「交通費」は、家族の一定の理解があり、家族が負担しているものと考えられる。欲しい物があった時の消費行動は、「諦める」「親に頼る」「自分の力で購入する」の3パターンであった。貯蓄については、将来なにかしら必要であると考え貯蓄する生徒や、目の前にある欲しいもののために貯蓄する生徒が多いということが分かった。 そこで費目の負担と「消費行動」及び「貯蓄行動」の関係について、SPSSを用いてコレスポンデンス分析を行った。 その結果「消費行動」に対する回答パターンでは、「自己負担している女子」は、「自分で購入する」「バイトする」の回答パターンに、「自己負担している男子」は、「貯めて購入する」の回答パターンに、「自己負担していない女子」は、「親に購入する」の回答パターン、「自己負担していない男子」は、「諦める」の回答パターンに類似している。このことから、「自己負担している男女」は、他人には頼らず自分の力で入手していると分かった。 また、「貯蓄目的」に対する回答パターンは、「自己負担している女子」及び「自己負担している男子」は、「長期的目的がある」「長期的目的はない」「短期的目的がある」の回答パターンに、「自己負担していない女子」は、「短期的目的はない」の回答パターンに、「自己負担していない男子」は、「無回答」の回答パターンに類似している。このことから、男女とも自己負担のある生徒は、貯蓄に対してある程度具体的な目的を持ち、また、将来的に使う目的で貯蓄をイメージしていることが読み取れる。以上の結果、高校生は「自己負担をしている、していない男女」で異なる金銭管理を行っていることが明らかとなった。 高等学校家庭科においては、「自己負担をしている、していない男女」がそれぞれ異なる「消費行動」と「貯蓄目的」をすることを踏まえ、それぞれに必要な指導を明確にする必要があると考えられる。 「消費行動」では「自己負担をしている男子」は、「貯めて購入する」、「自己負担をしている女子」は「自分で購入する」「バイトする」回答パターンとの類似から「意思決定」が必要であろう。また「自己負担していない男子」は、「諦める」回答パターンとの類から、「自己投資」が必要であると考えられる。また「自己負担していない女子」は、「親が購入する」パターンとの類似から、「資金管理」が必要であると考えられる。 「貯蓄目的」では、「自己負担をしている男子」及び「自己負担している女子」は、「長期的目的がある」「長期的目的はない」「短期的目的がある」回答パターンとの類似から、「生活の見直し」「生活設計」が必要であると考えられる。「自己負担していない男子」は、「無回答」回答パターンとの類似から、「資金管理」が必要であると考える。「自己負担していない女子」は、「短期的目的はない」回答パターンとの類似から、「生活設計」が必要であると考えられる。
著者
楢府 暢子 阿部 睦子 亀井 佑子 志村 結美 仙波 圭子 仲田 郁子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【研究目的】<br>&nbsp;&nbsp; グローバル化が進展する中、世界の人々と共に生活していくためには、日本や地域の伝統、文化についての理解を深め、他国の文化も理解し、共に尊重する態度を身に付けることが重要である。中央教育審議会答申(2008)においては、家庭科の関連事項として、「衣食住にわたって伝統的な生活文化に親しみ、その継承と発展を図る観点から、その学習活動の充実が求められる」と明記された。&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; <br>&nbsp;&nbsp; 本研究は、家庭科教育における日本の伝統的な「生活文化」に関する教育内容・教育方法について現状を検討し、小・中・高等学校の授業を創造し、実践し、検証して授業提案を行っていくことを目的とする。本研究では、「人間がよりよい生活を営むために工夫し、努力してきたもの」を「生活文化」と考え、「文化」「歴史」「伝統」「地域」などをキーワードとし、主に衣食住に関する事項を取り上げている。<br>&nbsp;&nbsp; 本報では、第58回大会、平成27年度例会に引き続き、全国の国立大学法人附属小・中・高等学校の教員対象調査から生活文化に関連する授業分析の報告をする。<br><br>&nbsp;【研究方法】 <br>&nbsp;&nbsp; 全国の国立大学法人附属小学校・中学校・高等学校の家庭科担当教員に2014年3月に「生活文化」に関する授業調査を行った。結果、小31校、中29校、高9校、計69校から回答を得た。その中の先進的な授業実践から一事例を取り上げ、報告と分析を行う。具体的には、国立大学法人A中等教育学校の学校設定科目である6年生(高校3年生)対象の選択科目「生活文化」の実践内容と2001年度受講生25名と2015年度受講生12名の授業後の感想の分析等である。<br><br>【結果及び考察】<br>&nbsp; &nbsp;国立大学法人A中等教育学校では、平成10年公示の学習指導要領で生活文化の伝承と創造が取り入れられたことを受けて、6年生(高校3年生)の選択授業に「生活文化」を設置することとした。科目設置のねらいは、伝統行事や社会的慣習の意味や内容を体験的に理解させるとともにその背景となる先人の知恵や考え方を知ることによって、生徒自身が生活文化の重要性に気付き、それらを現代の生活の中で自分たちなりの工夫をしながら継承していくことである。<br>&nbsp; 2単位の通年のこの授業では、実習と講義を隔週で行った。調理実習では、季節の食材や行事に関連したものを取り上げ、それに関連する講義も併せて行った。具体的には、草餅、梅干し、おはぎ、おせち料理、クリスマス料理などである。実習内容は、日本だけでなく、海外の行事や慣習も扱った。調理実習だけでなく、手紙の書き方、冠婚葬祭のマナーなど日常生活におけるしきたり、心遣いについても扱った。調理以外に水引き、祝儀袋、しつらえなど日常生活に見られる伝統技術の実習も行った。<br>1年間の授業後の生徒の感想からは、「日本の生活文化について正しく理解していなかったことがわかった」や「常識がないことに気づいた」など自分自身に対しての気づきが多く認められた。また、各授業内容について、「ためになった」、「楽しかった」など肯定的な評価がほとんどであった。この授業全般に対して、「生活に役立つ、日本人として知っておくべきこと」など、必要性を認めていた。<br>&nbsp;&nbsp; 今後の課題は、今までの調査等を踏まえ、A中等教育学校を含めた具体的な授業事例の分析から、種々の条件の中で実施できる授業提案につなげていくことである。また、国立大学法人学校授業調査において、どの校種でも生活文化を学ぶことで培える力として「自分自身の生活課題に気づく」を挙げる教師が半数を超えており、生活課題の気づきに焦点を当てた授業内容の検討を合わせて行いたい。