著者
仲田 郁子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.48, pp.32, 2005

1、目的<BR>自分らしく充実した人生を送るためには、生活設計を立案し自らの課題について考えることが不可欠である。しかし十代半ばの高校生には、何十年も先まで考えることは簡単なことではない。近年は社会変動の激しさに伴うフリーターの増加や未婚化・少子化の進行などの問題点が指摘され、また就職活動に取り組もうとしない若者が増えていることなど、従来は見られなかった問題も注目されてきており、高校生にとっては、学校を卒業してから精神的・経済的に自立するまでの移行期の過ごし方を考えることが特に重要であると考えられる。就職や結婚などに関する意識は、性別や進路の違いによって相当大きいことが予想されるが、これらについて今までに充分研究がなされているとは認められないことがわかった。<BR>そこで本研究では、高校生が学校卒業後の生き方についてどのように考えているか調査を行い、男女差と進学志向に注目して、その特徴と課題を明らかにすることを目的とする。<BR>2、方法<BR>ほぼ全員が大学進学を希望していると考えられる高校2校(都立高、千葉県立高各1)と、多様な進路選択が行われていると考えられる高校2校(都立高、千葉県立高各1)の計4校を選び、各校の家庭科担当教諭に依頼して質問紙調査を行った。対象は1年生、調査時期は2004年11月から2005年2月、回収数は647(男子302、女子345)である。<BR>3、結果<BR>調査は高校生の(1)親との関係と成育環境、(2)職業選択・結婚・自立に関する意識、(3)現段階での自立度と興味関心、(4)生活設計のための資源の4点について行った。今回は(2)と(4)について報告する。<BR>職業選択で重視する点については全体に大きな違いは見られず、「安定していて雰囲気が良く、自分がやりたい仕事」が挙げられていた。働き方についても大きな違いは見られなかったが、男女別に見ると、どの高校でもフリーターについては男子の方が「長く続けるべきではない」と考えていることがわかった。「就職のことを考えると不安になる」者は進路多様高の男子に多く見られ、女子は男子に比べて、人間関係に不安を持つ者が多かった。<BR>結婚については「するつもりはない」とする者は大変少なく、結婚志向は高い。「フリーターとは結婚したくない」と考える女子は男子と比べて多かった。「長男には特別な役割がある」、「理想的な女性の生き方は専業主婦」とする者は今回の調査ではかなり少なかった。「子どもが3歳になるまでは母親は家で子育てをするのがよい」とする者は進路多様高の女子には比較的多く見られたが、全体では「女性も働き続けるのがよい」とする者が多かった。<BR>自立したと言えるのはいつかという問いに対しては、全体では「就職して自活が可能になった時」が最も多かった。進路多様高の女子ではそれ以外に「親元を離れた時」とする者が多く、男子では同様に「親元を離れた時」と「就職した時」が多かった。<BR>自分の生活設計を考える時、どのような資源を利用したいかについては、男子は「自分で勉強する」と答えた者が最も多く、続いて「学校での進路指導」や「アルバイトの経験を生かす」が挙がった。女子もほぼ同様であるが「親や友人と相談して考える」とする者が男子より多かった。「授業の中で考える」を選んだ者は男女共大変少なく、彼らも教科としては現代社会や政治経済、総合的な学習を挙げており、家庭科はごく少数の者しか選択していなかった。<BR>高校生は就職や結婚について真面目に考えてはいるが、生活設計として積極的に捉えることは充分にできていないように思われる。
著者
小清水 貴子 松岡 文子 山本 光世 艮 香織 小倉 礼子 河村 美穂 千葉 悦子 仲井 志乃 仲田 郁子 中村 恵美子 松井 洋子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.65, 2008

<B>研究目的</B><BR> 保育の学習は、母性の保護や子どもの成長・発達がメインである。平成12年高等学校学習指導要領解説(家庭編)では、「少子化の進展に対応して、子どもがどのように育つのかに関心をもち、子どもを生み育てることの意義を理解する学習を重視するために、子どもの発達と保育に関する内容の充実を図った」と述べられている。しかし、少子高齢社会を迎えたいま、中・高校生が小さい子どもとかかわる機会は減少している。生徒たちにとって、赤ちゃんをイメージし、小さい生命に対して自分と同じ命の重みを感じることは難しい。また児童虐待など子育ての困難さから、将来、子どもをもつことに否定的な生徒もいる。そのような生徒たちが、生命について考え、子どもを生み育てることの意義を理解するためには、保育の学習で何を取り上げ、どのような視点に立った授業をすればよいだろうか。<BR> そこで、死から生をとらえ直す授業として『誕生死』を教材にした授業を行い、その実践報告を通して保育で生徒に何を教えるか、保育の学習目標を明らかにすることを目的とする。<BR><BR><B>研究方法</B><BR> (1)メンバーの一人が『誕生死』(流産・死産・新生児死で子をなくした親の会著、2002、三省堂)を教材にした授業実践を報告する。(2)実践報告を聞いて教材や授業の視点について議論する。(3)議論を通して自身の保育の授業を振り返り、メールを利用して意見交換を行う。その後、メンバーが記述した意見をもとに議論・考察を行い、学習目標を検討する。<BR><BR><B>結果と考察</B><BR><U>(1)『誕生死』を教材とした授業実践の概要</U><BR> 授業は平成18年6月、高校2年生の選択科目「発達と保育」で実践した。『誕生死』から一組の夫婦の手記をプリントして、教師が読み聞かせを行い、読後に感想を記述させた。多くの生徒が、出産が必ずしも喜びをもたらすものではないことに気づき、生命の重みを感じていた。また、母親だけでなく父親や祖父母の胎児に対する愛情の深さを感じた様子だった。<BR><U>(2)実践報告後の議論</U><BR> 報告者は生徒の反応に手応えを感じたことから、一教材の提案として実践を報告した。しかし議論では、教材としての妥当性について賛否両論に分かれた。賛成意見では、夫婦の感情が手記に溢れてインパクトが強く、生徒の心に響くなどがあがった。反対意見では、逆にインパクトが強過ぎて生徒の心の揺らぎを受け止めるのは難しいなどがあがった。議論から、生徒に何を教え、考えさせるか、個々の教師が授業を振り返り、学習目標を明らかにすることが必要であることが分かった。<BR><U>(3)教材選択と教師が設定する学習目標</U><BR> 議論後の各自の振り返りから、保育学習の課題として「教材選択と妥当性」と「保育の学習目標」の二つの論点が明らかになった。「教材選択と妥当性」では、教師および生徒の問題意識、教師と生徒との関係性、教師の年齢や生活経験など教師自身のもつ背景が関係していることが分かった。「保育の学習目標」では、とくに生命の誕生に関する学習において、性感染症や中絶などの恐ろしさから生徒の行動抑制に重きをおく授業や、生徒自身の性をみつめることに重きをおく授業など、幅広い学習目標が設定可能である。どのような目標を設定するかは、生徒の実態から教師自身が必要と考える目標を明確にすることが必要である。<BR><U>(4)保育で何を教えるか―私たちが考える保育の学習―</U><BR> 保育では、誕生前より誕生後の子どもの発達にウエイトが置かれている。しかし、人の一生をトータルにみていくことが家庭科独自の視点である。そこで、家庭科教育の中でしか扱えない、誕生前後をつなぐ「性」「生命」を視野に入れた授業が必要である。
著者
楢府 暢子 阿部 睦子 亀井 佑子 志村 結美 仙波 圭子 仲田 郁子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【研究目的】<br>&nbsp;&nbsp; グローバル化が進展する中、世界の人々と共に生活していくためには、日本や地域の伝統、文化についての理解を深め、他国の文化も理解し、共に尊重する態度を身に付けることが重要である。中央教育審議会答申(2008)においては、家庭科の関連事項として、「衣食住にわたって伝統的な生活文化に親しみ、その継承と発展を図る観点から、その学習活動の充実が求められる」と明記された。&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; <br>&nbsp;&nbsp; 本研究は、家庭科教育における日本の伝統的な「生活文化」に関する教育内容・教育方法について現状を検討し、小・中・高等学校の授業を創造し、実践し、検証して授業提案を行っていくことを目的とする。本研究では、「人間がよりよい生活を営むために工夫し、努力してきたもの」を「生活文化」と考え、「文化」「歴史」「伝統」「地域」などをキーワードとし、主に衣食住に関する事項を取り上げている。<br>&nbsp;&nbsp; 本報では、第58回大会、平成27年度例会に引き続き、全国の国立大学法人附属小・中・高等学校の教員対象調査から生活文化に関連する授業分析の報告をする。<br><br>&nbsp;【研究方法】 <br>&nbsp;&nbsp; 全国の国立大学法人附属小学校・中学校・高等学校の家庭科担当教員に2014年3月に「生活文化」に関する授業調査を行った。結果、小31校、中29校、高9校、計69校から回答を得た。その中の先進的な授業実践から一事例を取り上げ、報告と分析を行う。具体的には、国立大学法人A中等教育学校の学校設定科目である6年生(高校3年生)対象の選択科目「生活文化」の実践内容と2001年度受講生25名と2015年度受講生12名の授業後の感想の分析等である。<br><br>【結果及び考察】<br>&nbsp; &nbsp;国立大学法人A中等教育学校では、平成10年公示の学習指導要領で生活文化の伝承と創造が取り入れられたことを受けて、6年生(高校3年生)の選択授業に「生活文化」を設置することとした。科目設置のねらいは、伝統行事や社会的慣習の意味や内容を体験的に理解させるとともにその背景となる先人の知恵や考え方を知ることによって、生徒自身が生活文化の重要性に気付き、それらを現代の生活の中で自分たちなりの工夫をしながら継承していくことである。<br>&nbsp; 2単位の通年のこの授業では、実習と講義を隔週で行った。調理実習では、季節の食材や行事に関連したものを取り上げ、それに関連する講義も併せて行った。具体的には、草餅、梅干し、おはぎ、おせち料理、クリスマス料理などである。実習内容は、日本だけでなく、海外の行事や慣習も扱った。調理実習だけでなく、手紙の書き方、冠婚葬祭のマナーなど日常生活におけるしきたり、心遣いについても扱った。調理以外に水引き、祝儀袋、しつらえなど日常生活に見られる伝統技術の実習も行った。<br>1年間の授業後の生徒の感想からは、「日本の生活文化について正しく理解していなかったことがわかった」や「常識がないことに気づいた」など自分自身に対しての気づきが多く認められた。また、各授業内容について、「ためになった」、「楽しかった」など肯定的な評価がほとんどであった。この授業全般に対して、「生活に役立つ、日本人として知っておくべきこと」など、必要性を認めていた。<br>&nbsp;&nbsp; 今後の課題は、今までの調査等を踏まえ、A中等教育学校を含めた具体的な授業事例の分析から、種々の条件の中で実施できる授業提案につなげていくことである。また、国立大学法人学校授業調査において、どの校種でも生活文化を学ぶことで培える力として「自分自身の生活課題に気づく」を挙げる教師が半数を超えており、生活課題の気づきに焦点を当てた授業内容の検討を合わせて行いたい。