著者
仲山 英樹
出版者
神戸大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

【研究目的】植物の生産性を著しく減少させる塩ストレスの主要因であるNa^+毒性の分子機構を明らかにするために植物体内のK^+/Na^+輸送系の理解が必須である。本研究は、主要作物のイネに存在するHAK/HKT輸送体がK^+/Na^+輸送に果たしている役割を解明し、HAK/HKT輸送体を活用した耐塩性植物の分子育種を行うことを目的とする。【結果と考察】1. HAK輸送体ファミリーのクラスターIに属するイネHAK輸送体の解析HAK輸送体ファミリーのうち、高親和性のK^+輸送能を有すると推定されるクラスターIに属するOsHAK1, OsHAK5, OsHAK16, OsHAK20, OsHAK21, OsHAK22, OsHAK27の7つのHAK輸送体遺伝子の発現様式を解析した。その結果、OsHAK5は、K^+欠乏やNa^+ストレス下の根において恒常的に発現していたが、葉ではK^+欠乏により発現が上昇した。OsHAK1とOsHAK16はK^+欠乏やNa^+ストレス下の根において発現が上昇した。2. HKT/HAK導入による耐塩性植物の分子育種これまでに、OsHAK5を過剰発現したタバコ細胞の耐塩性が向上することが明らかとなったが、現在、形質転換イネの作製を進めている。Na^+輸送体OsHKT2 ; 1とK^+輸送能を獲得したその点変異体OsHKT2 ; 1S88G、K^+輸送体OsHKT2 ; 2をそれぞれ過剰発現する形質転換イネを作出した。各形質転換イネのT2個体で低K^+(0.3mM)、高Na^+条件(50mM)において水耕栽培を行い、生育を調査した。高Na^+条件では、OsHKT2 ; 1S88G系統とOsHKT2 ; 2系統で他の系統よりも生長率が高かった。このことから、高Na^+条件では、OsHKT2 ; 1S88GやOsHKT2 ; 2が、直接または間接的にイネの耐塩性向上に寄与していることが示唆された。