著者
藤田 次郎 比嘉 太 健山 正男 仲松 美幸 大湾 知子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.319-326, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
1
被引用文献数
2

近年,院内感染によって医師の法的責任が認められ多額の損害賠償責任を命ぜられる裁判例が増加している.今回我々はmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(以下,MRSAと略す)の院内感染症を対象とした判例を解析した.過去12年間の裁判例をコンピューターの判例検索システムを用いて検索し,MRSAの院内感染による病院側の責任が直接の争点となったものを抽出した.検討しえた23件の判例のうち,22事例を解析したところ,うち13件においては,医療従事者の過失が一部認容されており,残りの9件においては請求が棄却されている.また13件の一部認容と判定された事例のうち,10件においてはMRSA感染症関連のものであった.MRSA院内感染事例においては,MRSA院内感染そのものが医療従事者の責任であると判断されるケースはほとんどなかった.医療従事者の過失があると判決が下された例においては,そのほとんどがMRSA感染症の早期診断,または早期治療を適切に行わなかったことに関連するものであった.