著者
任 喜敬 今井 範子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.46, no.9, pp.849-860, 1995

本報では, 韓国都市集合住宅の居住者 (主人・主婦) を対象とした入浴状況の調査を行い, 入浴慣習の実態と, それに関連する入浴意識を明らかにした.その結果は, 以下のとおりである.<BR>(1) 居住者の入浴状況を公衆浴場と住宅内浴室に分けてみた結果, まず公衆浴場が都市集合住宅の居住者にとって, 日常的な入浴空間として存在していることが認められた.<BR>公衆浴場の利用状況は季節別に差が著しく, 冬季に最も高い.なお, 入浴回数は週1回程度の定期的な利用が多い.入浴にかかる時間は「1時間以上」の割合が最も高く, 入浴時間が長いという特徴があげられる.公衆浴場において, 湯につかるために浴槽を利用する者は, 約8割と多く, 湯につかる入浴慣習が形成されている.利用理由としてはサウナの利用と, 住宅内浴室が寒いからという理由が多く占めている.以上の公衆浴場の利用状況を年齢階層, 調査地域別にみた結果, 若い世代, また大都市ソウルにおいてその利用の程度は低く, 住宅内浴室での入浴が多くなる傾向が指摘できる.<BR>(2) 公衆浴場の利用が多いことから, そこでの主婦の入浴意識を分析した結果, とりわけ「疲労回復」と「体の清潔」にその意義を強く感じると反応する居住者が最も多く, 入浴の2大目的になっている.サウナを目的とする居住者が多いことは, 「疲労回復」の意識が高いことに関係している.また「住宅内浴室が寒い」という理由が多いことは, 「体の清潔」のために垢をとるという生理衛生的な意識が高いことに関係している.入浴意識は入浴回数が多い者ほど, また入浴時間が長い者ほど, 「楽しみ」, 「体の清潔」, 「気分転換」, 「くつろぎ」, 「疲労回復」, 「美容」などの項目の平均値が高く, 多様な項目に対し感じると反応している.調査地域別にみた結果, 光州の居住者の入浴意識がソウルの居住者よりも積極的であるが, ソウルに比べてタイプIII (公衆浴場利用積極型) が多いことに関係している.<BR>(3) 住宅内浴室では主人, 主婦ともに「1日1回以上シャワー」をする入浴が夏季の入浴慣習として形成されていることが指摘できる.しかしながら, 冬季には乾燥した大陸的な気候風土により入浴回数が少なくなる.したがって公衆浴場と住宅内浴室の双方からみた居住者の入浴状況は, 夏季と冬季では大きく異なる.<BR>(4) 住宅内の主浴室においての浴槽利用状況から入浴方法をみた結果, 浴槽の中での入浴として「洗い場で洗い, 湯につかる」という日本式が6割, 「シャワー入浴」という方法が4割存在し, ζの2方法が主であることがわかった.シャワー入浴の場所は, 浴槽の中以外に, 浴槽の外の洗い場があり, 洗い場でシャワー入浴をする者を含めると「シャワー入浴」はさらに多く認められる.夏季にはシャワー入浴をする者は6割を超え, 多く存在し, 韓国の伝統的な行水式またはかけ湯式がシャワーにとってかわったと考えられる.<BR>(5) 居住者の入浴慣習は, 主人, 主婦ともに「タイプ1 (住宅内浴室・公衆浴場利用積極型) 」, 「タイプII (住宅内浴室利用積極型) 」, 「タイプIII (公衆浴場利用積極型) 」, 「タイプIV (住宅内浴室・公衆浴場利用消極型) 」の四つに類型化される.これらを年齢階層・調査対象地域別にみた結果, 若い世代ほど, また大都市ソウルの居住者ほど, 住宅内浴室の入浴に対し積極的なタイプII (住宅内浴室利用積極型) が多いことから, 住宅内浴室での入浴が多くなる動向が読み取れ, 今後の入浴空間として住宅内浴室が積極的に使われる傾向がうかがえる.<BR>住宅内浴室について, 主浴室と内房浴室に分け, その使われ方の現状と問題点等を, 第2報において展開する.