著者
ロング ダニエル 任 榮哲
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.117, pp.37-67, 2000

本論では,「方言認知地図」という手法を用い,韓国の大学生400人余りを対象にしたアンケート調査から,韓国語の地理的変種に対する使用者の認識を追究する.結果としては,まず,方言の認知領域が行政区画である「道」と一致する傾向の強いことがわかった.そして,韓国人は,北部諸方言の詳細な特徴がわからなくても「北のことばは自分たちとは違う」と意識しており,朝鮮半島を南北に分断する政治的境界線がインフォーマントの言語変種意識に強く反映されている.また,ソウルで話されていることばが「最も快適なことば」として全国的に高い支持を得ているものの,それが「標準語」ではなく,「ソウル方言」と認識されているという興味深い結果も得られた.さらに,偏差値を算出すると,それぞれの地方の話者が母方言への愛着を持っている様子が浮き彫りになった.なお,各地で地元の方言が好意的に捉えられている中で,慶尚道だけに「方言コンプレックス」の傾向が現れるという特徴的な現象も見られた.