著者
伊東 孝洋 陶山 啓子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100311, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 臨床においては踵部の褥瘡予防を目的としてクッション等を用いて下肢挙上を行うことがあるが、過度な下肢挙上により仙骨部に褥瘡を発症する事例が存在する。また先行研究において膝関節拘縮は仙骨部や踵部に対する褥瘡発生リスクを高める要因の一つとされている。以前から褥瘡予防を目的とした背臥位や30°側臥位などの体位と仙骨部接触圧との関係や膝関節の拘縮が仙骨部接触圧にどのような影響を及ぼすか調査した研究はよく行われている。しかし膝関節屈曲拘縮及び下肢挙上の高さが仙骨部接触圧に与える影響については検討されていない。本研究の目的は膝関節屈曲角度と下肢挙上の高さが、仙骨部接触圧にどのような関連が生じるのか明らかにすることである。【方法】 対象者は20歳から35歳までの健常な成人男性で、BMIが18.5以上25未満の者を対象とした。測定期間は平成23年5月1日~10月31日、測定項目は対象者に対して膝関節角度(0°、30°、50°)と下肢挙上の高さ(0cm、5cm、10cm、15cm、20cm)を変化させ、背臥位におけるそれぞれの仙骨部接触圧を測定した。また対象者の背景(年齢、身長、体重)を調査した。測定方法は仙骨部接触圧をニッタ社製Body Pressure Measurement System(以下BPMSと略す)を用いてベットにマットレス(ケープ社製 アイリス2)を置き、その上にBPMSのセンサーを設置し測定を行った。そして対象者は病衣を着用し、膝関節角度(0°、30°、50°)いずれかに設定したダイアルロック式膝装具 (中村ブレイス社製ラックニリガACL)を装着後、センサー上に背臥位となり、1分間安静を保持した後に全ての膝関節角度と下肢挙上の高さについて、仙骨部最大接触圧を20秒間に1回、計3回測定し平均値を仙骨部接触圧とした。下肢挙上の高さはマットレスから踵部までの距離とし、高さの設定は体圧分散能力のない高さ5cmの足枕とニシスポーツ社製バランスパッド(以下バランスパッド)を用いて設定した。なお下肢挙上時は両下肢を挙上した。 測定において順序効果を相殺するため、膝関節屈曲角度と下肢挙上の高さの順番はランダムに設定した。統計分析はExcel統計2006を用い、膝関節屈曲角度それぞれにおける下肢挙上の高さと仙骨部接触圧との関係をSpearmanの順位相関係数によって求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は愛媛大学大学院医学系研究科看護学専攻研究倫理審査委員会の承認を受け、研究への参加は対象者の自由意志にて行い、書面による同意を得て行った。また個人情報の取り扱いについては氏名についてはコード化し外部に情報流出がないよう十分に留意した。【結果】 本研究に参加した対象者は15名であった。平均年齢は28.6±4.56歳、平均BMIは22.4±1.98であった。それぞれの膝関節屈曲角度における下肢挙上の高さと仙骨部接触圧との関係は、膝関節屈曲0°はr=0.41(p<0.001)、膝関節屈曲30°はr=0.35(p<0.001)、膝関節屈曲50°はr=0.41(p<0.001)であった。 【考察】 膝関節0°、30°、50°それぞれにおいて下肢挙上の高さと仙骨部接触圧に有意な正の相関関係が認められた。理由として下肢挙上により大腿部や下腿部後面とマットレスとの接触面積が減少し、大腿部後面や下腿部後面に係る接触圧が仙骨部へ移動したと考えた。また先行研究において大腿挙上運動によって骨盤は後傾方向へ運動するといわれており、下肢挙上による骨盤の後傾運動が生じ、仙骨部接触圧が増加した可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】 下肢挙上は血圧低下時や整形外科手術前後などで行われる姿勢であり、臨床においてよく行われる姿勢である。また高齢化を迎えるにあたって膝関節屈曲拘縮を有する患者は今後増加することが考えられる。膝関節屈曲角度及び下肢挙上の高さと仙骨部接触圧との関連を明らかにすることで、仙骨部における褥瘡発生及び予防につながる知見が得られる可能性があり、本研究を行う意義は大きいと考える。