著者
藤井 晶子 丸山 広達 柴 珠実 田中 久美子 小岡 亜希子 中村 五月 梶田 賢 江口 依里 友岡 清秀 谷川 武 斉藤 功 川村 良一 髙田 康徳 大澤 春彦 陶山 啓子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.300-307, 2020-07-25 (Released:2020-09-04)
参考文献数
27
被引用文献数
1

目的:飲酒と認知症に関する海外の研究のメタ分析では,飲酒量が少量の場合には発症リスクが低く,大量の場合には高い結果が示されている.しかし,アルコール代謝や飲酒文化が異なるわが国のエビデンスは限定的である.そこで本研究では,平均飲酒量と認知症前段階の軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment,以下MCIと略)との関連について検討した.方法:2014~2017年に愛媛県東温市の地域住民に実施した疫学研究「東温スタディ」に参加した60~84歳の男性421名,女性700名を本研究の対象とした.質問調査によって飲酒頻度,酒の種類別飲酒量を把握し,1日あたりの平均飲酒量を推定した.またJapanese version of Montreal Cognitive Assessmentを実施し,26点未満をMCIと定義した.男女別に現在飲まない群に対する平均飲酒量について男性3群,女性2群に分け各群のMCIの多変量調整オッズ比(95%信頼区間)をロジスティック回帰モデルにて算出した.さらに,ビール,日本酒,焼酎(原液),ワインについては,日本酒1合相当あたりの多変量調整オッズ比(95%信頼区間)を算出した.結果:男性212名(50.4%),女性220名(31.4%)がMCIに判定された.男性では,現在飲まない群に比べて,1日平均2合以上の群のMCIの多変量調整オッズ比(95%信頼区間)は1.78(0.93~3.40,傾向性p=0.045)であったが,女性では有意な関連は認められなかった(「1合以上」群の多変量調整オッズ比:95%信頼区間=0.96:0.39~2.38,傾向性p=0.92).この関連は,高血圧者において明確に認められた.また酒の種類別の解析では,男性において焼酎(原液)については多変量調整オッズ比(95%信頼区間)が1.57(1.18~2.07)と有意に高かった.結論:男性において平均飲酒量が多いほどMCIのリスクが高い可能性が示された.この関連は高血圧者においてより明確であった.
著者
伊東 孝洋 陶山 啓子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100311, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 臨床においては踵部の褥瘡予防を目的としてクッション等を用いて下肢挙上を行うことがあるが、過度な下肢挙上により仙骨部に褥瘡を発症する事例が存在する。また先行研究において膝関節拘縮は仙骨部や踵部に対する褥瘡発生リスクを高める要因の一つとされている。以前から褥瘡予防を目的とした背臥位や30°側臥位などの体位と仙骨部接触圧との関係や膝関節の拘縮が仙骨部接触圧にどのような影響を及ぼすか調査した研究はよく行われている。しかし膝関節屈曲拘縮及び下肢挙上の高さが仙骨部接触圧に与える影響については検討されていない。本研究の目的は膝関節屈曲角度と下肢挙上の高さが、仙骨部接触圧にどのような関連が生じるのか明らかにすることである。【方法】 対象者は20歳から35歳までの健常な成人男性で、BMIが18.5以上25未満の者を対象とした。測定期間は平成23年5月1日~10月31日、測定項目は対象者に対して膝関節角度(0°、30°、50°)と下肢挙上の高さ(0cm、5cm、10cm、15cm、20cm)を変化させ、背臥位におけるそれぞれの仙骨部接触圧を測定した。また対象者の背景(年齢、身長、体重)を調査した。測定方法は仙骨部接触圧をニッタ社製Body Pressure Measurement System(以下BPMSと略す)を用いてベットにマットレス(ケープ社製 アイリス2)を置き、その上にBPMSのセンサーを設置し測定を行った。そして対象者は病衣を着用し、膝関節角度(0°、30°、50°)いずれかに設定したダイアルロック式膝装具 (中村ブレイス社製ラックニリガACL)を装着後、センサー上に背臥位となり、1分間安静を保持した後に全ての膝関節角度と下肢挙上の高さについて、仙骨部最大接触圧を20秒間に1回、計3回測定し平均値を仙骨部接触圧とした。下肢挙上の高さはマットレスから踵部までの距離とし、高さの設定は体圧分散能力のない高さ5cmの足枕とニシスポーツ社製バランスパッド(以下バランスパッド)を用いて設定した。なお下肢挙上時は両下肢を挙上した。 測定において順序効果を相殺するため、膝関節屈曲角度と下肢挙上の高さの順番はランダムに設定した。統計分析はExcel統計2006を用い、膝関節屈曲角度それぞれにおける下肢挙上の高さと仙骨部接触圧との関係をSpearmanの順位相関係数によって求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は愛媛大学大学院医学系研究科看護学専攻研究倫理審査委員会の承認を受け、研究への参加は対象者の自由意志にて行い、書面による同意を得て行った。また個人情報の取り扱いについては氏名についてはコード化し外部に情報流出がないよう十分に留意した。【結果】 本研究に参加した対象者は15名であった。平均年齢は28.6±4.56歳、平均BMIは22.4±1.98であった。それぞれの膝関節屈曲角度における下肢挙上の高さと仙骨部接触圧との関係は、膝関節屈曲0°はr=0.41(p<0.001)、膝関節屈曲30°はr=0.35(p<0.001)、膝関節屈曲50°はr=0.41(p<0.001)であった。 【考察】 膝関節0°、30°、50°それぞれにおいて下肢挙上の高さと仙骨部接触圧に有意な正の相関関係が認められた。理由として下肢挙上により大腿部や下腿部後面とマットレスとの接触面積が減少し、大腿部後面や下腿部後面に係る接触圧が仙骨部へ移動したと考えた。また先行研究において大腿挙上運動によって骨盤は後傾方向へ運動するといわれており、下肢挙上による骨盤の後傾運動が生じ、仙骨部接触圧が増加した可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】 下肢挙上は血圧低下時や整形外科手術前後などで行われる姿勢であり、臨床においてよく行われる姿勢である。また高齢化を迎えるにあたって膝関節屈曲拘縮を有する患者は今後増加することが考えられる。膝関節屈曲角度及び下肢挙上の高さと仙骨部接触圧との関連を明らかにすることで、仙骨部における褥瘡発生及び予防につながる知見が得られる可能性があり、本研究を行う意義は大きいと考える。
著者
宇都宮 すみ 小岡 亜希子 陶山 啓子
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.393-402, 2019-01-20 (Released:2020-01-20)
参考文献数
18

本研究の目的は,要支援高齢者の社会活動の実態を把握し,社会活動に影響を及ぼす要因を明らかにすることである.対象は,中核市にあるA地域包括支援センターが担当する地区に居住し,要支援の認定を受けた65歳以上の高齢者のうち,施設入所者を除く788人である.調査内容は,社会活動とそれに影響を及ぼすと考えられる個人的要因,身体的要因,社会的要因とし,無記名自記式質問紙にて調査した.有効回答は411人で,重回帰分析にて社会活動に関連する要因を確認した.その結果,要支援高齢者の社会活動は,地域・近所との交流が多く,関連する要因は,老研式活動能力指標,認定区分,ソーシャルサポートの提供,非家族支援ネットワーク,公共交通機関の利用の5項目であった.要支援高齢者の社会活動を促進するためには,身体機能を維持することに加えて,地域での友人・知人とのつながりやサポートを提供できる役割を支援する必要性が示唆された.
著者
形上 五月 陶山 啓子 小岡 亜希子 藤井 晶子
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.13-20, 2011
参考文献数
15

本研究の目的は,尿意の訴えがなく失禁している介護老人保健施設入所者の中で膀胱機能が維持されている高齢者を対象として,尿意を定期的に確認し対象者の尿意の訴えに基づいたトイレ誘導を実施し,その効果を明らかにすることである.対象者は9名であった.実施期間は4週間とし,午前8時の排泄後から午後4時までの8時間に排尿援助を行った.事前に把握した対象者それぞれの排尿間隔を参考に排尿誘導時間を設定し,誘導時間には必ず対象者に尿意を問いかけた.実施前7日間,実施後7日間の失禁率と尿意を訴えた回数の変化で効果を評価した.尿失禁率は実施前後において有意に低下,確実に尿意を訴えた回数は有意に増加した.対象者のうち2名は,自発的に尿意を訴えることができるようになり,失禁は消失した.また,5名の対象者は,援助者の尿意の確認に対して尿意の有無が伝えられるようになり,失禁は減少した.以上のことより,尿意を訴えない施設高齢者であっても援助者が尿意を確認することで,自発的な尿意の表出が促進され,尿意に基づいた排尿援助を実施できる可能性が示唆された.
著者
森 万純 中村 五月 陶山 啓子
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.57-67, 2016

【目的】認知症の診断を受けている術後急性期患者に対して,看護師がどのような要因から4点柵の実施を判断しているのか,またその判断に影響を及ぼす看護師の背景を明らかにすることを目的とした.【方法】外科病棟に勤務している看護師に,抑制の三大原則の認識および転倒・転落予防のための4点柵実施を判断する要因等について無記名自記式質問紙調査を実施した.【結果】分析対象は547人であった.認知症の診断を受けている場合,4点柵の実施に同意できる者は170人(31.1%)であった.認知症の診断があり,かつ興奮状態や落ち着きのない行動がみられる場合でも,どちらともいえない,同意できないと回答した者が合わせて約4割であった.認知症の診断を受けている術後急性期患者の4点柵実施の判断に影響を及ぼしたのは,「ICUまたはHCUに勤務している」「3交替勤務」「看護倫理研修の受講」の3要因で,これらの群は有意に4点柵実施に同意する割合が高かった.【結論】認知症の診断を受けている術後急性期患者に対する4点柵実施に同意するかどうかの判断は,職場環境の影響があることが明らかになった.