著者
三村 優美子 伊藤 匡美
出版者
The Health Care Science Institute
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.151-166, 2007

日本の医薬品流通においては,1990年代以降,医薬品卸の合併を通した再編成が展開され,激しい構造変化を生じさせてきた。ただし,4社体制への収斂,年商2兆円規模の大手卸の成立により,医薬品卸の経営基盤は強化されたようにみえているが,依然として卸間の競争圧力は大きく,収益面での改善はみられていない。それは,規制緩和や医療制度改革のもとで医薬品卸の経営環境が厳しさを増しており,新旧とり混ぜた複雑な問題が生じているためである。また,厚生労働省医政局「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」(座長嶋口充輝(財)医療科学研究所研究所長)の場で論議されているように,医薬品卸と医療機関との取引の実態はむしろ悪化している。<br> 医薬品流通研究会では,薬価制度,取引条件・取引慣行問題,卸経営戦略,営業活動(MS)のあり方,物流・情報システムなど医薬品卸の直面する問題や課題を幅広く取り上げてきた。また,病院や調剤薬局の経営の現状を踏まえ,医薬品卸が医療機関とどのような連携を行うべきかなども重要なテーマとなっている。さらに,近年,医薬品における安全・安心への関心の高まりとともに,新型感染症の発生,大地震,大規模テロなどの非常時における医薬品供給のあり方が問われるようになった。全国すべての医療機関に確実に医薬品を供給することが医薬品卸の社会的責務であることから,常に危機への備えを行っておく必要がある。そこで,2006年度の医薬品流通研究会では,「危機管理型医薬品流通」の観点から,大地震発生時における医薬品卸の対応を事例として取上げ,社会的システムとしての医薬品供給体制の要件は何かを検討している。