著者
三村 優美子
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.137-162, 2011-07-28 (Released:2011-08-04)
参考文献数
18
被引用文献数
3 1

これまで医薬品流通では,未妥結仮納入,総価取引,不透明なリベートやアローアンスなどの固有の取引慣行問題に悩まされてきた。1990年代の流通近代化協議会(流近協),2000年代の「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会(流改懇)」と取引改善努力が続けられてきた。特に,2007年9月の流改懇の「緊急提言」は,“価値を適正に反映する価格”の観点から総価取引の改善(総価除外品の設定など)と,未妥結問題への積極的な取り組みの姿勢を示すことでその成果が期待された。ただし,改善は部分的に留まり,卸収益の面では事態がむしろ悪化している面もある。今後も改善努力は続けられるべきであるが,医薬分業,ジェネリック薬普及など医薬品流通の根本的な枠組みの変化を考慮して取引問題の再検討が必要である。さらに,2000年代に入り,産業的視点に立った薬価制度改革の方向性が示されるようになった。2010年度に試行的に導入された「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」は,革新的な新薬開発の促進と,特許切れ後には後発薬に置き換えることで薬剤費増加を抑制するというメリハリの利いた薬価制度への移行を意図している。この新薬価制度の検証はこれからであるが,一つの方向性を示したことは確かである。薬価制度の枠組みの変化,そして医薬品のタイプ分化は,医薬品卸の在り方や取引構造を大きく変えていくことは確実である。当研究会では,今回,薬価制度改革の方向と流通取引問題に焦点を合わせ,卸の立場から取引改善への取り組みについて検討を行った。
著者
三村 優美子 伊藤 匡美
出版者
The Health Care Science Institute
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.151-166, 2007

日本の医薬品流通においては,1990年代以降,医薬品卸の合併を通した再編成が展開され,激しい構造変化を生じさせてきた。ただし,4社体制への収斂,年商2兆円規模の大手卸の成立により,医薬品卸の経営基盤は強化されたようにみえているが,依然として卸間の競争圧力は大きく,収益面での改善はみられていない。それは,規制緩和や医療制度改革のもとで医薬品卸の経営環境が厳しさを増しており,新旧とり混ぜた複雑な問題が生じているためである。また,厚生労働省医政局「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」(座長嶋口充輝(財)医療科学研究所研究所長)の場で論議されているように,医薬品卸と医療機関との取引の実態はむしろ悪化している。<br> 医薬品流通研究会では,薬価制度,取引条件・取引慣行問題,卸経営戦略,営業活動(MS)のあり方,物流・情報システムなど医薬品卸の直面する問題や課題を幅広く取り上げてきた。また,病院や調剤薬局の経営の現状を踏まえ,医薬品卸が医療機関とどのような連携を行うべきかなども重要なテーマとなっている。さらに,近年,医薬品における安全・安心への関心の高まりとともに,新型感染症の発生,大地震,大規模テロなどの非常時における医薬品供給のあり方が問われるようになった。全国すべての医療機関に確実に医薬品を供給することが医薬品卸の社会的責務であることから,常に危機への備えを行っておく必要がある。そこで,2006年度の医薬品流通研究会では,「危機管理型医薬品流通」の観点から,大地震発生時における医薬品卸の対応を事例として取上げ,社会的システムとしての医薬品供給体制の要件は何かを検討している。