著者
古川 邦之 渡部 里々花 伊藤 季紗 小谷 沙織
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

マグマは冷却に伴い結晶化が進行する。形成される結晶の数やサイズ、形態は主に過冷却度に支配されている。天然の火成岩は様々な冷却履歴を経て形成されるので、結晶の産状は多様である。深成岩と火山岩の結晶組織の違いについては高等学校までに学習するが、実際の野外調査や顕微鏡観察では、さらに複雑な組織に出会うことになる。そのため、大学で地質学や岩石学を学ぶ学生は、より詳細な結晶形成過程を理解する必要がある。そこで私たちは、マグマ中における結晶化プロセスを直感的に理解できる簡単な実験を提案する。 実験には、甘味料であるエリスリトール(C4H10O4)を使用する。エリスリトールはカロリーゼロなので、ダイエット目的でよく使用される。エリスリトールの融点は121℃であるため、カセットコンロや家庭用ホットプレートなどで簡単に溶かすことができる。また液状のエリスリトールは比較的粘性が低いため、小さな過冷却度(高温)でも結晶が形成される。これは粘性の高い砂糖とは異なる点である。ガラス容器内で溶かしたエリスリトールを、様々な速度で冷却することで、多様な結晶の産状を作ることができる。容器やエリスリトールの量は任意で良いが、私たちは直径90mmのガラスシャーレに25gのエリスリトールを溶融させた。多様な冷却速度については、徐冷用ガラスマットやタオル、氷などを用いることで作り出した。その結果、過冷却度の上昇と共に、形成される結晶形態は自形、樹枝状、球晶と変化し、また結晶サイズは小さくなる傾向があった。球晶については大きな冷却速度が必要で、ガラスシャーレだと急冷により破損することが多い。そのため、スライドガラス上において、エリスリトールのメルトをカバーガラスで封入して冷却する方法の方が、表面積が大きくなり冷却速度が上がるので、容易に作ることができる。これらの結晶組織の特徴は、火成岩で観察されるものと類似している。特に、過冷却度が大きくなりやすい珪長質火山岩とはよく類似している。 また、赤外線放射温度計を用いて冷却中のメルト温度を測定することもできる。例えば、冷却速度の簡単な定量化もでき、今回の場合は冷却速度が概ね12℃/minを境に自形と樹枝状が変化し、40℃/minで樹枝状と球晶の変化が観察された。さらに、結晶化が進行すると潜熱の放出によりメルト温度が上昇に転じることも測定できる。結晶化に伴う昇温は、溶岩やマグマ溜まりのレオロジーにも重要であると考えられている。さらに顕微鏡により、リアルタイムで結晶成長を観察することもできる。 以上の実験を、地質学および岩石学などの実習教育に取り入れることで、結晶成長の直感的な理解が可能になると考えられる。結晶成長を理解した上で、野外や顕微鏡下での観察にのぞめば、それらの産状から冷却過程に関する制約を与えることでき、地質現象の正確な解釈に繋がると考えられる。
著者
古川 邦之 伊藤 季紗 小谷 沙織
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
日本地質学会学術大会講演要旨 (ISSN:13483935)
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

本講演は著者都合により発表キャンセルとなりました.キャンセルされた講演要旨は引用できません.ご注意ください.