著者
伊藤 宏文
出版者
Japan Society of Neurovegetative Research
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.320-326, 2022 (Released:2022-11-03)
参考文献数
24

慢性上咽頭炎の治療法の1つに上咽頭擦過療法(EAT)がある.本研究はEATが自律神経機能に及ぼす影響を解明することを目的として,慢性上咽頭炎症例27名の心電図記録について心拍変動解析を行った.EATを安静時,鼻腔内診察時,経鼻的擦過時,経口的擦過時の4つのイベントに分類した.4つのイベント毎にHR,CVRR,ccv HF,L/Hの4項目を測定して統計的検討を行なった.結果,経鼻的擦過時にはHRの減少とccv HFの増加を認めた.経口的擦過時にはHR,CVRRの増加を認めた.EATは心拍変動に影響を及ぼし,経鼻的擦過時には副交感神経を刺激し,経口的擦過時には交感神経と副交感神経の両方を刺激して咽頭反射を誘発していると考えられた.EATは興奮性と抑制性の相反性刺激により自律神経機能を賦活化すると考えられた.
著者
新見 將泰 中島 祥夫 坂本 尚志 遊座 潤 伊藤 宏文 三浦 巧 鈴木 晴彦
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.97-104, 1994

近年,運動関連脳電位については手指の単純な屈伸運動に関する詳細な研究はあるが,発声に関する報告は少ない。本研究では,ピッチ変化と母音の変化における発声関連脳電位の変化を等電位図法と双極子追跡法(頭部均一媒質による)を用いて解析することを目的とした。18-35歳の健康な男女10名(右利き)を対象とし,高低数種類のピッチで母音を自己のペースで発声させた。脳波は頭皮上においた21個の表面電極より導出した。喉頭前面皮膚上においた加速度計波形の立ち上がりをトリガーとして用い,発声前2.5s,発声開始後2.5sの脳波を加算平均し,等電位図の作成と双極子追跡法により電源位置の推定計算を行い,被験者のMRI画像を用いて電源位置を検討した。発声に約1200ms先行して両側の中側頭部に緩徐な陰性電位が認められた。これは正常のヒト発声時の大脳皮質の準備状態を反映する発声関連脳電位と考えられた。この陰性電位は,分布範囲,強度とも左半球優位の場合が多かった。また発声のピッチを高く変化した場合には,右側の振幅の変化が,より大きくなる傾向があった。一般にヒトの発声において言語中枢は(左)優位半球に広く存在すること,発声周波数(ピッチ)の変化は(右)劣位半球の関与が大きいことが知られている。上記の結果はこの説に一致すると考えられた。発声に先行する陰性電位の電源部位は双極子追跡法により両側の中心前回下部付近に限局して分布した。発声のピッチや母音を変えても電源位置に変化は認められなかった。