著者
伊藤 朋子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.251-263, 2009-09-10 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
2

本研究では,中学生32名と大学生54名を対象に,サイコロふりに関する基礎的な確率課題を出題し,伊藤(2008)の確率量化操作の4水準の発達段階を理論的に発展させた3段階2水準の発達段階の妥当性を検証する調査を行った。その結果,確率量化以前の段階0,基本的な1次的量化が可能な段階IA,加法的合成を伴う1次的量化が可能な段階IB,基本的な2次的量化が可能な段階IIA,加法的合成を伴う2次的量化が可能な段階IIB,基本的な条件付確率の量化が可能な段階IIIA,ベイズ型条件付確率の量化が可能な段階IIIB,という確率量化操作の発達段階が見出された。中学生の多くは段階IAにとどまること,大学生の多くは段階II以上にあるが,段階IIBで必要とされる場合分けという第1の障壁のために段階IIAにとどまる場合があること,段階IIBに到達した大学生でも,思考の可逆性という第2の障壁のために段階IIIの到達には困難を要することが明らかになった。
著者
伊藤 朋子 中垣 啓
出版者
Japan Society of Developmental Psychology
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.518-526, 2013

本研究では,課題解決におけるコンピテンスとして確率量化操作を想定する立場(e.g., 伊藤, 2008a)から,自然頻度表記版(Zhu & Gigerenzer, 2006),絶対数表記版,一部変更自然頻度表記版の3表記からなる「赤鼻課題」に対する中学生の推論様式を分析した。その結果,自然頻度表記版課題と絶対数表記版課題の正判断における推論様式は共通しており,両表記版の正判断率の間に有意な差はみられなかった。相対頻度表記が含まれている一部変更自然頻度表記版課題の正判断率は,自然頻度表記版課題や絶対数表記版課題の正判断率よりも有意に低く,相対頻度表記をあたかも絶対数表記であるかのように扱った推論様式が出現した。これらの結果から,自然頻度表記を用いれば子どもでもベイズ型推論課題が解けるというZhu & Gigerenzer (2006)の結果は,自然頻度表記版課題の構造が絶対数表記版課題の構造と区別されず,絶対数表記版課題と同じ考え方(基本的な1次的量化)に従って解答したからではないかと思われる。すなわち,ベイズ型推論課題は本来3次的量化操作を要求する課題であるにもかかわらず,自然頻度表記に書き換えることによって,基本的な1次的量化課題として解けるようになるために,見かけのうえでベイズ型推論が可能であるように見えるのではないかと思われる。これは,課題変質効果(中垣, 1989)の現れであるように思われる。