著者
髙坂 康雅
出版者
Japan Society of Developmental Psychology
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.284-294, 2013

本研究の目的は,"恋人を欲しいと思わない"青年(恋愛不要群)がもつ"恋人を欲しいと思わない"理由(恋愛不要理由)を分析し,その理由によって恋愛不要群を分類し,さらに,恋愛不要理由による分類によって自我発達の違いを検討することであった。大学生1532名を対象に,現在の恋愛状況を尋ねたところ,307名が恋人を欲しいと思っていなかった。次に,恋愛不要理由項目45項目について因子分析を行ったところ,「恋愛による負担の回避」,「恋愛に対する自信のなさ」,「充実した現実生活」,「恋愛の意義のわからなさ」,「過去の恋愛のひきずり」,「楽観的恋愛予期」の6因子が抽出された。さらに,恋愛不要理由6得点によるクラスター分析を行ったところ,恋愛不要群は恋愛拒否群,理由なし群,ひきずり群,自信なし群,楽観予期群に分類された。5つの群について自我発達を比較したところ,恋愛拒否群や自信なし群は自我発達の程度が低く,楽観予期群は自我発達の程度が高いことが明らかとなった。
著者
髙坂 康雅
出版者
Japan Society of Developmental Psychology
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.284-294, 2013

本研究の目的は,"恋人を欲しいと思わない"青年(恋愛不要群)がもつ"恋人を欲しいと思わない"理由(恋愛不要理由)を分析し,その理由によって恋愛不要群を分類し,さらに,恋愛不要理由による分類によって自我発達の違いを検討することであった。大学生1532名を対象に,現在の恋愛状況を尋ねたところ,307名が恋人を欲しいと思っていなかった。次に,恋愛不要理由項目45項目について因子分析を行ったところ,「恋愛による負担の回避」,「恋愛に対する自信のなさ」,「充実した現実生活」,「恋愛の意義のわからなさ」,「過去の恋愛のひきずり」,「楽観的恋愛予期」の6因子が抽出された。さらに,恋愛不要理由6得点によるクラスター分析を行ったところ,恋愛不要群は恋愛拒否群,理由なし群,ひきずり群,自信なし群,楽観予期群に分類された。5つの群について自我発達を比較したところ,恋愛拒否群や自信なし群は自我発達の程度が低く,楽観予期群は自我発達の程度が高いことが明らかとなった。
著者
飯塚 有紀
出版者
Japan Society of Developmental Psychology
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.263-272, 2013

本研究は,低出生体重等の理由で子どもが保育器に入ることによって母子分離を経験した8名の母親の心理・情緒的経験,葛藤を丁寧に描くことを目的とした。語られたインタビューの内容については,現象学的分析を用いて検討した。その結果,NICUへの入院を経験した低出生体重児の母親は,妊娠・分娩・出産のトラウマティックな傷つき体験と早産に関する自責の念を背景としながら,最初期の母子関係の構築を始めることが明らかとなった。保育器に子どもが入ることになり母子分離が起こると,子どもとの間に心理的な距離が発生し,母子関係構築のための貴重な時期に危機的状態が発生することが確認された。しかし,自由に抱っこができる状況,すなわち母子再統合がなされるとこの母子間の心理的な距離は一気に解消される。母子再統合によって,母親は,母親としての実感を抱くようになった。一時的な母子分離は,抱っこやそれに付随する授乳などによって容易に克服できる可能性が示された。しかし,妊娠・分娩・出産に伴うトラウマティックな傷つき体験と自責の念は,ことあるごとに繰り返しよみがえってくるようであった。カンガルーケア等の母子関係構築の初期における母子の接触を積極的に行うことが必要であろうし,また,このような母親の心性を医療スタッフが理解しておくことも重要である。
著者
中井 大介
出版者
Japan Society of Developmental Psychology
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.539-551, 2013

本研究では,これまで思弁的論考が多く,同一の構造とされてきた,中学生の母親に対する信頼感と父親に対する信頼感の因子構造を明らかにし,それぞれに対する信頼感が生徒の学校適応感に及ぼす影響を検討した。中学生563名を対象に調査を実施した。第一に,中学生の母親に対する信頼感尺度(STM尺度)と父親に対する信頼感尺度(STF尺度)を作成し,信頼性と妥当性を検討した。その結果,(1)STM尺度は「母親への役割遂行評価」「母親への安心感」「母親への不信」の3因子構造であること,(2)STF尺度は「父親への安心・信用」「父親への不信」「父親への親近感」の3因子構造であることが明らかになった。また,中学生の母親に対する信頼感と父親に対する信頼感が生徒の学校適応感に及ぼす影響を検討したところ,(3)母親に対する信頼感,父親に対する信頼感のそれぞれが生徒の学校適応感に影響を及ぼし,その影響の様相は母親と父親の対象別,生徒の学年別・性別によって異なることが明らかになった。これらの結果から,中学生の母親に対する信頼感と父親に対する信頼感は異なる因子構造であること,それぞれに対する信頼感が学校適応感に及ぼす影響には発達差や性差が見られることが明らかになった。
著者
李 熙馥 田中 真理
出版者
Japan Society of Developmental Psychology
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.527-538, 2013

ナラティブ(Narrative,語り)には,ある出来事をどのように組織化し,意味づけるのかに関する構成の側面と,聞き手となる他者にどう伝えるのかに関する行為の側面がある。本研究は,空想のストーリーであるフィクショナルナラティブ(Fictional Narrative:以下FN)に注目し,自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:以下ASD)児の構成と行為の側面における特性について検討を行った。その結果,ASD児のFNは典型発達児と比べて,FNの組織化において登場する人や場所,時間,行動的状況に関する言及である「セッティング」や,ストーリーの結末を明確にする「結果」に関する言及が少ない,登場人物の言動と心的・情動的状態との因果関係に関する言及が少ない,言動の主体を明確にし,主人公の一貫した観点からFNを構成することが少ないことが示された。一方,行為の側面においては,参照的工夫の言及においては典型発達児との間に有意な差はなく,参照的工夫の行動においては小学生のASD児の方が小学生の典型発達児よりFNを行う際に聞き手をみる行動が多かったことが示され,ASD児は聞き手に伝えようとする意識を有していた可能性が考えられた。今後は,聞き手の状態や働きかけに対し,どのようにナラティブを調整するのかに関する検討が必要であると考えられる。
著者
伊藤 朋子 中垣 啓
出版者
Japan Society of Developmental Psychology
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.518-526, 2013

本研究では,課題解決におけるコンピテンスとして確率量化操作を想定する立場(e.g., 伊藤, 2008a)から,自然頻度表記版(Zhu & Gigerenzer, 2006),絶対数表記版,一部変更自然頻度表記版の3表記からなる「赤鼻課題」に対する中学生の推論様式を分析した。その結果,自然頻度表記版課題と絶対数表記版課題の正判断における推論様式は共通しており,両表記版の正判断率の間に有意な差はみられなかった。相対頻度表記が含まれている一部変更自然頻度表記版課題の正判断率は,自然頻度表記版課題や絶対数表記版課題の正判断率よりも有意に低く,相対頻度表記をあたかも絶対数表記であるかのように扱った推論様式が出現した。これらの結果から,自然頻度表記を用いれば子どもでもベイズ型推論課題が解けるというZhu & Gigerenzer (2006)の結果は,自然頻度表記版課題の構造が絶対数表記版課題の構造と区別されず,絶対数表記版課題と同じ考え方(基本的な1次的量化)に従って解答したからではないかと思われる。すなわち,ベイズ型推論課題は本来3次的量化操作を要求する課題であるにもかかわらず,自然頻度表記に書き換えることによって,基本的な1次的量化課題として解けるようになるために,見かけのうえでベイズ型推論が可能であるように見えるのではないかと思われる。これは,課題変質効果(中垣, 1989)の現れであるように思われる。
著者
蒲谷 槙介
出版者
Japan Society of Developmental Psychology
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.507-517, 2013

近年,アタッチメントの世代間伝達の枠組みの中で,母親がいかに乳児のネガティブ情動を共感的に映し出すかという調律的応答を重視する立場が台頭しつつある。本稿では,前言語期の乳児とその母親を対象とした相互作用場面の観察を実施し,母親が実際にどのような調律的応答を行うのかを検証した。回帰分析の結果,内的作業モデルが安定傾向の母親は乳児のネガティブ情動表出に対し「笑顔を伴った心境言及」を行いやすい一方,不安定傾向の母親は心境言及を行わない,もしくは心境言及を含まない応答をしやすいことが明らかとなった。また,気質的にむずかりやすい乳児と,内的作業モデルのうち回避の側面が強い母親の組合せでは,「笑顔を伴った心境言及」が特に生起しにくいことが明らかとなった。この応答はこれまでの理論的枠組みでは見逃されてきた調律的応答の一種と考えられ,子どもの社会情緒的発達を促進する一つの要因として今後着目すべきものである。