著者
神原 憲治 伴 郁美 福永 幹彦 中井 吉英
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.19-25, 2008-04-25 (Released:2017-05-23)

心身症や機能的な身体疾患では,感情や身体感覚の気づきの低下が病態に関わっているとされる.我々は,心身症患者や機能性身体疾患患者と健常人を比較して,ストレス負荷前後の精神生理学的指標の変化を評価するPsychophysiological Stress Profile (PSP)を行い,その際の客観的生理指標と自覚的感覚の関係性について調べてきた.これまでに,心身症患者群と健常群で,緊張に関する主観的指標と客観的指標の間の関係性に何らかの違いがあることが示唆されている.今回我々は,当科を受診した心身症患者52例と健常対照群30例にPSPを行い,ストレス負荷前後における生理指標(精神的な緊張の指標としてスキンコンダクタンス,身体的な緊張の指標として前額筋電位),及び,その際の自覚的感覚(精神的・身体的緊張感)の変化について検討した.その結果,生理指標については2群間で有意差は認められなかったが,自覚的緊張感については2群間で有意差が認められた.心身症患者群は健常群と比べて,客観的には同程度の緊張であったが,主観的には精神的にも身体的にも高い緊張を感じていた.特に身体的緊張感については,健常人に比べて緊張・弛緩のメリハリの小さいパターンであった.健常人はストレス時に身体的緊張を感じるのに対して,心身症患者群はストレス前やストレス後にも高い緊張を感じるために,ストレス中との差(メリハリ)が小さくなったと考えられた.高い緊張感が持続すると弛緩した感覚が分かりにくくなり,アレキシソミア(失体感症)につながっていくと思われる.このような病態に対して,バイオフィードバックを中心とした心身医学的アプローチを行い,身体感覚が回復する経過を辿った,顎関節症(心身症)の一症例を紹介しながら,身体感覚の気づきへのプロセスとバイオフィードバックの関わりについて考察を加えた.症例は,当初全身の緊張が高く,思考優位で,身体感覚の気づきが低下して顎や肩の緊張も感じられない状態であった.バイオフィードバックを含めたアプローチによって感覚と思考のつながりが回復し,身体に対する気づきが高まり,緊張がゆるんでいった.それに伴って,どこに問題があるのかが分かるようになり,健康的な身体感覚が戻ってきた.池見らは,バイオフィードバックは身体的な気づきを促す上で有用であると述べている.フィードバックされた身体の状態(客観的指標)と,自分で感じる身体の感覚(主観的感覚)をマッチングさせることで両者の乖離に気づき,それが手掛かりになって身体感覚の気づきが高まる.そのプロセスの中で,脳幹や大脳辺縁系と大脳新皮質の機能的乖離が改善し,伝達機能が回復すると考えられる.身体感覚の気づきが高まると,感情の気づきにもつながり,心身相関の気づきにもつながっていくと考えられた.
著者
神原 憲治 伴 郁美 福永 幹彦 中井 吉英
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.19-25, 2008-04-25
被引用文献数
3

心身症や機能的な身体疾患では,感情や身体感覚の気づきの低下が病態に関わっているとされる.我々は,心身症患者や機能性身体疾患患者と健常人を比較して,ストレス負荷前後の精神生理学的指標の変化を評価するPsychophysiological Stress Profile (PSP)を行い,その際の客観的生理指標と自覚的感覚の関係性について調べてきた.これまでに,心身症患者群と健常群で,緊張に関する主観的指標と客観的指標の間の関係性に何らかの違いがあることが示唆されている.今回我々は,当科を受診した心身症患者52例と健常対照群30例にPSPを行い,ストレス負荷前後における生理指標(精神的な緊張の指標としてスキンコンダクタンス,身体的な緊張の指標として前額筋電位),及び,その際の自覚的感覚(精神的・身体的緊張感)の変化について検討した.その結果,生理指標については2群間で有意差は認められなかったが,自覚的緊張感については2群間で有意差が認められた.心身症患者群は健常群と比べて,客観的には同程度の緊張であったが,主観的には精神的にも身体的にも高い緊張を感じていた.特に身体的緊張感については,健常人に比べて緊張・弛緩のメリハリの小さいパターンであった.健常人はストレス時に身体的緊張を感じるのに対して,心身症患者群はストレス前やストレス後にも高い緊張を感じるために,ストレス中との差(メリハリ)が小さくなったと考えられた.高い緊張感が持続すると弛緩した感覚が分かりにくくなり,アレキシソミア(失体感症)につながっていくと思われる.このような病態に対して,バイオフィードバックを中心とした心身医学的アプローチを行い,身体感覚が回復する経過を辿った,顎関節症(心身症)の一症例を紹介しながら,身体感覚の気づきへのプロセスとバイオフィードバックの関わりについて考察を加えた.症例は,当初全身の緊張が高く,思考優位で,身体感覚の気づきが低下して顎や肩の緊張も感じられない状態であった.バイオフィードバックを含めたアプローチによって感覚と思考のつながりが回復し,身体に対する気づきが高まり,緊張がゆるんでいった.それに伴って,どこに問題があるのかが分かるようになり,健康的な身体感覚が戻ってきた.池見らは,バイオフィードバックは身体的な気づきを促す上で有用であると述べている.フィードバックされた身体の状態(客観的指標)と,自分で感じる身体の感覚(主観的感覚)をマッチングさせることで両者の乖離に気づき,それが手掛かりになって身体感覚の気づきが高まる.そのプロセスの中で,脳幹や大脳辺縁系と大脳新皮質の機能的乖離が改善し,伝達機能が回復すると考えられる.身体感覚の気づきが高まると,感情の気づきにもつながり,心身相関の気づきにもつながっていくと考えられた.