著者
中野 敦行 山口 昌樹
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.3-9, 2011-04-25 (Released:2017-05-23)
被引用文献数
15

唾液アミラーゼ活性(SAA)は,血漿ノルエピネフリン濃度と相関が高いことが良く知られており,ストレス評価における交感神経の指標として利用されている.ストレス研究への利用を目的として,本研究者らは携帯型の唾液アミラーゼモニターを実用化した.このバイオセンサは,使い捨て式のテストストリップと,唾液転写機構を備えた本体(130×87×40mm^3;190g)で構成されている.分析時間は1分ほどで,迅速なSAAの分析が可能である.本論文は,ストレッサーと唾液アミラーゼの変化量の関連性を定量的に示すことで,エビデンスの構築に資することを目的としている.今まで報告されてきた事例研究のデータを用い,ストレッサーを精神的なストレッサー,精神的・肉体的双方のストレッサー(心身ストレッサー),肉体的なストレッサーに分類した.ストレッサーに起因する唾液アミラーゼ活性の変化量を算出し,ストレッサーの種類で比較した.唾液アミラーゼは,その感度が鋭敏なことから,快・不快の判別が可能であることが示された.特に,急性のストレス評価に有効であると考えられた.このバイオセンサは,測定自体がストレスとなることなく,非侵襲,即時,随時,簡便なストレス計測手法として有効である.
著者
廣田 昭久
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.28-37, 1997-12-20 (Released:2017-05-23)
被引用文献数
1

末梢皮膚温・末梢皮膚血流について,その解剖学的・生理学的機序について論じられた.末梢皮膚血流の調節機構,身体部位による差異,血流量と皮膚温との関係,皮膚血流における周期性変動,生体リズム,男女差,環境温の影響等について概観された.そして,末梢循環計測およびバイオフィードバックを行う上での統制すべき要因として,測定部位,実験室温,被験者特性があげられ,さらに適切な解析時間・測定方法について論じられた.
著者
浦谷 裕樹 大須賀 美恵子
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.19-26, 2014-04-25 (Released:2017-05-23)
被引用文献数
1

自然災害や事故・事件等の影響により,その後一定の割合で心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症する子どもたちがいる.その予防のために心のケアを必要とする子どもは多く,予防法の一つとして心身を落ち着ける呼吸法を身につけることが挙げられる.そこで,幼児・小学生たちが効果的に呼吸法を学びリラックスすることができるバイオフィードバック機能付きのぬいぐるみを開発することにした.お腹の上下運動により呼吸を誘導する呼吸誘導ぬいぐるみを開発し, 4〜12歳の健康児48名(男子26名,女子22名)を対象に呼吸誘導の効果を評価する実験を行った.生理指標として脈波と呼吸を計測し,ぬいぐるみが誘導した呼吸周期と参加者の呼吸周期の同期率を算出し比較したところ,呼吸をうまく合わせられた適合群(20名)と合わせられなかった不適合群(28名)の2群に分かれることがわかった.同期率には年齢による差があり, 6歳以下では呼吸誘導されづらいこと,また若干の性別差もあり,女子の方が男子よりもやや呼吸誘導されやすいことがわかった.呼吸誘導によってリラックスできるかどうかを調べるのは今後の課題である.
著者
平木 典子
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.49-53, 2021 (Released:2021-10-29)
参考文献数
10

1980年代に始まった心理療法・カウンセリングの理論・技法の整理・統合の試みは,それまでの理論・技法の氾濫による冷戦と単一理論による実践の限界,そして理論・技法の効果研究による共通要因の発見などの影響を受けて開始された.1979年には,SEPI(Society for Exploration of Psychotherapy Integration)が北米で設立され,以後,国際的な理論・技法の洗練を目指した議論が進められた.理論・技法の統合の方法としては,技法的折衷,理論的統合,共通因子によるアプローチ,同化的統合が試みられている.1990年後半に入り,社会構成主義(ポストモダニズム)の多元性と多様性を重視する認識論は,諸理論の共存を重視する理論・技法の洗練を促進し,今や,「カウンセリングの専門家であるセラピスト」と「自分自身の専門家であるクライエント」の協働(コラボレーション)による自己回復の支援が不可欠になった.本論では,心理療法統合の試みと,それに続く協働的,多元的アプローチの展開について論じた.
著者
福井 亜理 稲森 義雄
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.35-39, 2003-06-14

本実験の目的は,ハンドベル演奏者の呼吸に同期減少が見られるかを検討することであった.12名の女子大学生がクリスマスメドレーを演奏し,彼女たちの呼吸を計測した.その結果,演奏中に演奏者の呼吸周波数は0.45Hz近辺に上昇した.しかしながら,本実験では呼吸位相が揃う同期現象は明白には観測されなかった.
著者
梅沢 章男 黒原 彰
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.29-36, 1994-07-31 (Released:2017-05-23)

Previous biofeedback studies concerning electrodermal activities have used either skin conductance (SC) or skin potential (SP). This study was designed to investigate the temporal correspondence between SC and SP and to determine the most suitable indicator for electrodermal biofeedback studies. SC and SP were recorded simultaneously in 24 subjects under the mirror drawing test. The following results were obtained : (1) Intrasubject correlation coefficients between total amplitudes per minute of skin conductance response (SCR) and of skin potential response (SPR) were significant in all subjects, whereas correlations between skin conductance level (SCL) and skin potential level (SPL) were significant in only 17 subjects (70.8%). Correlations between SCL and SPL were low or significant negative in subjects showed a positive SPL shift caused by a burst of positive SPRs. (2) Although SCR and SPR, phasic components of EDA, showed a marked increase in total amplitude in the first half of the experiment, but a gradual decreasing of responsiveness was found in the latter half. On the other hand, SCL and SPL, tonic components of EDA, showed consistent responsiveness throughout the experiment. (3) Latency of changes in SPL were significantly longer than changes in SCL. These results suggest that SCL is the most suitable indicator for electrodermal biofeedback studies.
著者
野田 さとみ 佐久間 春夫
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.29-36, 2010-04-25 (Released:2017-05-23)
被引用文献数
1

本研究では,手指の運動を伴う遊びであるあやとりの特徴を明らかにするために,類似する遊びとして折り紙を取りあげ,動作パターンの学習過程について比較検討を行なった.被験者は健康な女性10名であった.あやとり課題・折り紙課題はそれぞれ動作パターンを記憶するための練習時間を設定し(練習中),練習後は3分間連続して課題を行なった.測定項目は,生理指標として脳波の周波数帯域別含有率の変化,心理指標として坂入らによる「心理的覚醒度・快感度を測定する二次元気分尺度」および遂行の自己評定とした.脳波の結果から,前頭部においては課題に関わらず練習中よりも練習後でα1波,α2波,β波の含有率の増加が認められた.中心部・頭頂部では,あやとりは練習中・練習後にβ波が変化しないのに対し,折り紙では練習中に比べ練習後でβ波の増加が認められ,あやとりよりも折り紙の方が動作パターンを記憶して行うことで中心部・頭頂部が活性化することが示された.自己評定の結果からは,練習中・練習後に関わらず折り紙に比べあやとりの方が集中して取り組んでいたことが示された.以上の結果から,動作パターンを記憶して行なった場合,あやとり・折り紙ともに意識的に手順を想起しながら行うことにより覚醒が高まること,あやとりに比べ折り紙は視覚情報への依存度が高く動作手順の遂行への集中を要することが示された.一方,自己評定の結果からは動作パターンを記憶しているかに関わらず折り紙よりもあやとりの方が集中していたと報告され,これは,あやとりは常に糸を一定の形に保たなければならないという活動特性によるものと考えられた.
著者
片山 幸太郎
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.99-104, 2015-10-25

リスクリテラシーとは,リスクに接する際に,その背景にまで考えを及ばせ,リスクの波及範囲を正確に見極め対処する力を備え,さらにリスクを予防する能力のことをいう.市民生活におけるリスクリテラシーにおいては,日常の生活における種々のリスクに加え,不期遭遇的なクライシス状況に対応する能力も求められている.そこで本稿ではリスクマネジメントの概念についてまず整理をし,さらにクライシス状況に対し準備すべき具体的事項について武道家として概説する.
著者
及川 欧 榊原 雅人
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.33-38, 2021 (Released:2021-05-19)
参考文献数
12

コロナ禍の臨床現場では今 「直接触れ合う」 ことを避ける傾向にある. 今まで通りバイオフィードバック治療/施術を行えるように, 著者らは日本バイオフィードバック学会独自の医学系・工学系・心理学系の連携を背景に, 最近日本でよく用いられるようになった遠隔webビデオ会議システムを用いた新しい形の治療法を試案した. 具体的な治療法は, 1990年代から一貫して用いている, 自律訓練法, バイオフィードバック法と呼吸法を組み合わせた方法である. 今回, 5例の冷え症の女性に遠隔治療を試みて症状改善が得られ, その結果をNHKの全国放送で発表した. 時代に応じ, 治療法にICT (Information and Communication Technology) を駆使した新しい試みだが, 治療する/される側, 発信する側/視聴する側それぞれには, 今まで以上にICTを 「適切に」 使いこなすための 「リテラシー」 が要求される. 本稿では, 「リテラシー」 に関する著者らなりの見解を示す.
著者
竹内 裕美 寺井 堅祐 梅沢 章男
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.14-20, 1999

本研究は, 実験的ストレッサーに対する心臓血管反応性とアレキシサイミア人格特性の関連性を明らかにすることを目的とした.健康な男女大学生25名に対して, 暗算(能動的対処課題)と寒冷昇圧(受動的対処課題)の2種類の課題を提示した.また, 全被験者に対しトロント・アレキシサイミア尺度(TAS-20)とMMPIを施行した.被験者はTAS-20の中央値によって, アレキシサイミア高・低群に分けられた.心拍数(HR)と平均血圧(MBP)を分析したところ, 以下の所見を得た.(1)HR, MBPは, 実験的ストレッサーに対して有意な増加を示した.(2)アレキシサイミア高群は, 低群と比較して, 有意に低いHR反応性を示した.(3)MBP反応性については, アレキシサイミア高・低群に統計的な差異は認められなかった.(4)アレキシサイミア高群は, 低群と比較すると, MMPI妥当性尺度の修正点(K)が有意に低く, 抑うつ(D), 精神衰弱(Pt), 社会的内向性(Si)尺度において高い丁得点を示した.これらの結果より, アレキシサイミア傾向の高い個人は, 強い主観的な不適応感を持っているにもかかわらず, ストレス刺激に対する心臓側の反応性は決して高くないと考えられた.
著者
市井 雅哉
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.38-44, 1997-12-20 (Released:2017-05-23)

阪神・淡路大震災の被災者で急性ストレス障害を呈した2名の女性に対して震災1ケ月後にEMDRを適用した.いずれも1セッションで地震への恐怖感は消失した.EMDRをPTSDやASDといったストレス障害の治療に用いることの有効性が示された.治療技法としてのEMDRの特徴として、即効性,クライエント・治療者双方に対してのストレスの少なさを指摘し,作用機序についてこれまで提唱されている仮説について紹介した.
著者
神原 憲治 伴 郁美 福永 幹彦 中井 吉英
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.19-25, 2008-04-25 (Released:2017-05-23)

心身症や機能的な身体疾患では,感情や身体感覚の気づきの低下が病態に関わっているとされる.我々は,心身症患者や機能性身体疾患患者と健常人を比較して,ストレス負荷前後の精神生理学的指標の変化を評価するPsychophysiological Stress Profile (PSP)を行い,その際の客観的生理指標と自覚的感覚の関係性について調べてきた.これまでに,心身症患者群と健常群で,緊張に関する主観的指標と客観的指標の間の関係性に何らかの違いがあることが示唆されている.今回我々は,当科を受診した心身症患者52例と健常対照群30例にPSPを行い,ストレス負荷前後における生理指標(精神的な緊張の指標としてスキンコンダクタンス,身体的な緊張の指標として前額筋電位),及び,その際の自覚的感覚(精神的・身体的緊張感)の変化について検討した.その結果,生理指標については2群間で有意差は認められなかったが,自覚的緊張感については2群間で有意差が認められた.心身症患者群は健常群と比べて,客観的には同程度の緊張であったが,主観的には精神的にも身体的にも高い緊張を感じていた.特に身体的緊張感については,健常人に比べて緊張・弛緩のメリハリの小さいパターンであった.健常人はストレス時に身体的緊張を感じるのに対して,心身症患者群はストレス前やストレス後にも高い緊張を感じるために,ストレス中との差(メリハリ)が小さくなったと考えられた.高い緊張感が持続すると弛緩した感覚が分かりにくくなり,アレキシソミア(失体感症)につながっていくと思われる.このような病態に対して,バイオフィードバックを中心とした心身医学的アプローチを行い,身体感覚が回復する経過を辿った,顎関節症(心身症)の一症例を紹介しながら,身体感覚の気づきへのプロセスとバイオフィードバックの関わりについて考察を加えた.症例は,当初全身の緊張が高く,思考優位で,身体感覚の気づきが低下して顎や肩の緊張も感じられない状態であった.バイオフィードバックを含めたアプローチによって感覚と思考のつながりが回復し,身体に対する気づきが高まり,緊張がゆるんでいった.それに伴って,どこに問題があるのかが分かるようになり,健康的な身体感覚が戻ってきた.池見らは,バイオフィードバックは身体的な気づきを促す上で有用であると述べている.フィードバックされた身体の状態(客観的指標)と,自分で感じる身体の感覚(主観的感覚)をマッチングさせることで両者の乖離に気づき,それが手掛かりになって身体感覚の気づきが高まる.そのプロセスの中で,脳幹や大脳辺縁系と大脳新皮質の機能的乖離が改善し,伝達機能が回復すると考えられる.身体感覚の気づきが高まると,感情の気づきにもつながり,心身相関の気づきにもつながっていくと考えられた.
著者
井川 純一 志和 資朗 中西 大輔 車地 未帆 菊本 修 井手下 久登
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.97-103, 2010-10-25 (Released:2017-05-23)

不安状態における自律神経機能を客観的に評価する目的で,指尖脈波を用いた心拍変動の分析を行った.対象は,不安状態を主訴に治療中の患者25名(男性6名,女性19名,平均年齢47.7歳).対照群33名(男性6名,女性27名,平均年齢48.7歳)であった.脈波測定装置を用いて低周波(Low Frequency:LF)成分および高周波(High Frequency:HF)成分を抽出し,LF/HFを交感神経,HFを副交感神経指標とした.心理指標としてはSTAIの状態不安と特性不安を測定した.不安群が対照群に比べ,副交感神経指標(HF)が低下する傾向が見られた.また,STAIと生理指標では,特性不安と副交感神経指標(HF)との間に有意な負の相関が認められた.以上のことから,不安状態における自律神経機能は,副交感神経指標(HF)によって客観的に評価できる可能性が示唆された.
著者
白井 珠美
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.19-23, 2018 (Released:2018-10-31)
参考文献数
40

西洋医学は人々と地域の健康に必ずしも最適な結果をもたらしていない. 米国の医療は過去20年間, 新しい3つの流れに直面している. まず, 治癒を最大限にしたいという患者のニーズは統合医療の成長を加速し, 第二に, 米国政府はがん患者の治療を改善することを目指し, プレシジョン・メディシン (精密医療) に焦点を当てている. また急速に拡大する非感染性疾患に対し, 医師および医療従事者達が低コストな予防的手法, ライフスタイル・メディシンを提供し始めた. この記事では, これらの関連する3つの分野 — 統合医療, プレシジョン・メディシン, ライフスタイル・メディシン — の米国医学での成長についてまとめ, 従来の医学に統合するための具体的な手順について説明する.