著者
川人 潤子 上田 夏生 神原 憲治 三木 崇範 黒滝 直弘
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.540-545, 2021 (Released:2021-09-01)
参考文献数
4

本稿では,全国的に実施事例のない,心理職志望学生の解剖実習見学による教育効果を報告する.2020年1月に公認心理師養成課程である香川大学医学部臨床心理学科に在籍する2年次生が,同大学医学部医学科における解剖実習を見学した.見学後のアンケートの結果,15名のうち8割の学生は,人体の形態・機能に関する理解を深めた.さらに,献体への敬意を含む生命倫理の理解,心理士としての職責の理解,ならびに学習意欲に関しては,すべての学生の意識が促進された.また,自由記述による回答では,主に「心理士に必要な知識・技能・態度」「実感による学習」「献体への敬意」に関する記述が報告された.見学を通じて,学生の人体の形態・機能の理解が促進され,さらに生命への慈愛の精神や対人援助職として必須である倫理観が育まれた.解剖実習見学による,心理士養成課程の学生への高い教育効果が確認された.
著者
蓮尾 英明 神原 憲治 阿部 哲也 三枝 美香 石原 辰彦 福永 幹彦 中井 吉英
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.134-140, 2012-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
17

認知機能が低下している患者とのかかわりに対して,家族が無力感を感じていることは多い.その中で,家族が患者の手を握りながら寄り添っている光景をよくみかける.そこで,手を握る行為が患者の自律神経機能に与える影響を客観的に評価することは,家族の自己効力感の向上につながると考えられた.今回,家族が手を握る行為による患者の胃運動機能の変化,その結果の説明による家族の自己効力感の変化を評価した.対象は,胃瘻による栄養を受けている認知機能の低下した癌終末期を含む患者とその付き添い家族の計13組とした.胃運動機能は,体外式超音波で評価した.家族の自己効力感は,一般性自己効力感尺度などで評価した.結果は,家族が手を握る行為下では非行為下と比較し,前庭部運動能,胃排出能ともに有意に亢進した.その結果の説明にて,家族の自己効力感は高まった.
著者
神原 憲治 伴 郁美 福永 幹彦 中井 吉英
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.19-25, 2008-04-25 (Released:2017-05-23)

心身症や機能的な身体疾患では,感情や身体感覚の気づきの低下が病態に関わっているとされる.我々は,心身症患者や機能性身体疾患患者と健常人を比較して,ストレス負荷前後の精神生理学的指標の変化を評価するPsychophysiological Stress Profile (PSP)を行い,その際の客観的生理指標と自覚的感覚の関係性について調べてきた.これまでに,心身症患者群と健常群で,緊張に関する主観的指標と客観的指標の間の関係性に何らかの違いがあることが示唆されている.今回我々は,当科を受診した心身症患者52例と健常対照群30例にPSPを行い,ストレス負荷前後における生理指標(精神的な緊張の指標としてスキンコンダクタンス,身体的な緊張の指標として前額筋電位),及び,その際の自覚的感覚(精神的・身体的緊張感)の変化について検討した.その結果,生理指標については2群間で有意差は認められなかったが,自覚的緊張感については2群間で有意差が認められた.心身症患者群は健常群と比べて,客観的には同程度の緊張であったが,主観的には精神的にも身体的にも高い緊張を感じていた.特に身体的緊張感については,健常人に比べて緊張・弛緩のメリハリの小さいパターンであった.健常人はストレス時に身体的緊張を感じるのに対して,心身症患者群はストレス前やストレス後にも高い緊張を感じるために,ストレス中との差(メリハリ)が小さくなったと考えられた.高い緊張感が持続すると弛緩した感覚が分かりにくくなり,アレキシソミア(失体感症)につながっていくと思われる.このような病態に対して,バイオフィードバックを中心とした心身医学的アプローチを行い,身体感覚が回復する経過を辿った,顎関節症(心身症)の一症例を紹介しながら,身体感覚の気づきへのプロセスとバイオフィードバックの関わりについて考察を加えた.症例は,当初全身の緊張が高く,思考優位で,身体感覚の気づきが低下して顎や肩の緊張も感じられない状態であった.バイオフィードバックを含めたアプローチによって感覚と思考のつながりが回復し,身体に対する気づきが高まり,緊張がゆるんでいった.それに伴って,どこに問題があるのかが分かるようになり,健康的な身体感覚が戻ってきた.池見らは,バイオフィードバックは身体的な気づきを促す上で有用であると述べている.フィードバックされた身体の状態(客観的指標)と,自分で感じる身体の感覚(主観的感覚)をマッチングさせることで両者の乖離に気づき,それが手掛かりになって身体感覚の気づきが高まる.そのプロセスの中で,脳幹や大脳辺縁系と大脳新皮質の機能的乖離が改善し,伝達機能が回復すると考えられる.身体感覚の気づきが高まると,感情の気づきにもつながり,心身相関の気づきにもつながっていくと考えられた.
著者
蓮尾 英明 神原 憲治 阿部 哲也 三枝 美香 石原 辰彦 福永 幹彦 中井 吉英
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.134-140, 2012-02-01
参考文献数
17

認知機能が低下している患者とのかかわりに対して,家族が無力感を感じていることは多い.その中で,家族が患者の手を握りながら寄り添っている光景をよくみかける.そこで,手を握る行為が患者の自律神経機能に与える影響を客観的に評価することは,家族の自己効力感の向上につながると考えられた.今回,家族が手を握る行為による患者の胃運動機能の変化,その結果の説明による家族の自己効力感の変化を評価した.対象は,胃瘻による栄養を受けている認知機能の低下した癌終末期を含む患者とその付き添い家族の計13組とした.胃運動機能は,体外式超音波で評価した.家族の自己効力感は,一般性自己効力感尺度などで評価した.結果は,家族が手を握る行為下では非行為下と比較し,前庭部運動能,胃排出能ともに有意に亢進した.その結果の説明にて,家族の自己効力感は高まった.
著者
神原 憲治 伴 郁美 福永 幹彦 中井 吉英
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.19-25, 2008-04-25
被引用文献数
3

心身症や機能的な身体疾患では,感情や身体感覚の気づきの低下が病態に関わっているとされる.我々は,心身症患者や機能性身体疾患患者と健常人を比較して,ストレス負荷前後の精神生理学的指標の変化を評価するPsychophysiological Stress Profile (PSP)を行い,その際の客観的生理指標と自覚的感覚の関係性について調べてきた.これまでに,心身症患者群と健常群で,緊張に関する主観的指標と客観的指標の間の関係性に何らかの違いがあることが示唆されている.今回我々は,当科を受診した心身症患者52例と健常対照群30例にPSPを行い,ストレス負荷前後における生理指標(精神的な緊張の指標としてスキンコンダクタンス,身体的な緊張の指標として前額筋電位),及び,その際の自覚的感覚(精神的・身体的緊張感)の変化について検討した.その結果,生理指標については2群間で有意差は認められなかったが,自覚的緊張感については2群間で有意差が認められた.心身症患者群は健常群と比べて,客観的には同程度の緊張であったが,主観的には精神的にも身体的にも高い緊張を感じていた.特に身体的緊張感については,健常人に比べて緊張・弛緩のメリハリの小さいパターンであった.健常人はストレス時に身体的緊張を感じるのに対して,心身症患者群はストレス前やストレス後にも高い緊張を感じるために,ストレス中との差(メリハリ)が小さくなったと考えられた.高い緊張感が持続すると弛緩した感覚が分かりにくくなり,アレキシソミア(失体感症)につながっていくと思われる.このような病態に対して,バイオフィードバックを中心とした心身医学的アプローチを行い,身体感覚が回復する経過を辿った,顎関節症(心身症)の一症例を紹介しながら,身体感覚の気づきへのプロセスとバイオフィードバックの関わりについて考察を加えた.症例は,当初全身の緊張が高く,思考優位で,身体感覚の気づきが低下して顎や肩の緊張も感じられない状態であった.バイオフィードバックを含めたアプローチによって感覚と思考のつながりが回復し,身体に対する気づきが高まり,緊張がゆるんでいった.それに伴って,どこに問題があるのかが分かるようになり,健康的な身体感覚が戻ってきた.池見らは,バイオフィードバックは身体的な気づきを促す上で有用であると述べている.フィードバックされた身体の状態(客観的指標)と,自分で感じる身体の感覚(主観的感覚)をマッチングさせることで両者の乖離に気づき,それが手掛かりになって身体感覚の気づきが高まる.そのプロセスの中で,脳幹や大脳辺縁系と大脳新皮質の機能的乖離が改善し,伝達機能が回復すると考えられる.身体感覚の気づきが高まると,感情の気づきにもつながり,心身相関の気づきにもつながっていくと考えられた.
著者
神原 憲治
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.19-26, 2015-04-25 (Released:2017-05-23)

バイオフィードバックの効果は,本来の心身の調整のほかにさまざまな観点から捉えられる.心身医学の観点からは,生理的状態を意識化しながら調整するプロセスの中で,自身の心身の「気づき」による全人的な効果が想定され,それが身体の調整という本来の効果をも促進する.人間が健康を保つ上では,自律神経系など意識下の調整機能と,意識上の調整につながる気づきの両者が重要で,互いに関係し合いながら恒常性の維持に関わっている.バイオフィードバックは意識上・意識下の調整機能をつなぎながらその働きを高める.したがって,心身の気づきと調整機能の関係性は,心身医学的なバイオフィードバックの付加価値を考える上で重要である.心身の気づきの基盤となるのは「内受容感覚」であり,これには島皮質など,大脳辺縁系と新皮質系の連携に関与する部位が重要な役割を果たしている.内受容感覚の生理基盤から,自律的な調整機能と心身の気づきは密接に関係し合いながら恒常性の維持に関わっていることがわかる.また,Laneらの情動調整モデルによると,情動の気づきは副交感神経機能を介して負のフィードバックシステムを形成し,情動調整に関与している.心身の気づきの低下がみられる心身症や機能性疾患群における,精神生理学的ストレス反応についての我々の研究では,生理指標のベースラインでの緊張亢進とストレス反応の低下を特徴とする群が存在し,心身の気づきの低下に関与している可能性が示唆された.情動の気づきの低下であるアレキシサイミアが,心身症の主な病態の一つとして心身医学での主要テーマの一つとされてきたが,バイオフィードバックに関係が深い身体感覚や気づきの低下(アレキシソミア)が,その基盤として関わっていることが示唆されている.その生理基盤としての内受容感覚,さらにそのベースとなる自律神経などの調整機能という多層構造で,恒常性の維持や心身の調整が行われていると考えられる.バイオフィードバックは,身体内部の生理的状態を計測,視覚化してフィードバックし,本来は意識的にコントロールできない身体調整を試みるものである.従って,純粋に自律神経などの調整機能を高めるのと同時に,内受容感覚を高め,心身の気づきも促すという,複数のレベルをつなぎながら同時にアプローチできるツールとして,他にはない可能性を持った方法であると言えよう.
著者
蓮尾 英明 神原 憲治 水野 泰行 福永 幹彦 中井 吉英
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.417-423, 2015-05-01 (Released:2017-08-01)

背景:心療内科では,慢性めまいを主訴とする症例を多く経験する.この場合,2次的に頸部筋過緊張といった身体異常を認めることが多いが,患者の多くは失体感症傾向が高く自覚に乏しい.そのようなケースへの身体的なフィードバックによる認知の変容は示唆されている.今回われわれは,慢性めまいを訴える患者に対して,催眠による筋弛緩体験によって自覚に乏しい頸部筋過緊張の存在に気づく「体験的気づき」を用いた介入の有用性を検討した.方法:対象は,罹病期間が3カ月以上のめまいを主訴とした,頸部筋過緊張を認める56例である.初診時に,対象を催眠群28例,非催眠群28例にエントリー順に交互に振り分けた.その後,全例に,「頸部筋過緊張が原因の一つ」という説明のうえに肩の漸進的筋弛緩法を指導した.おのおのの群に対して,経時的に,めまい感の程度を数値的評価スケールにて比較検討した.結果:催眠群,対照群ともに,有意なNumerical Rating Scaleの変化が認められた(p<0.001).両群とも初診〜1カ月後(p<0.001)の変化が有意であり,1カ月後〜3カ月後の変化は有意ではなかった.催眠群と対照群の比較では,催眠群のめまい感のNumerical Rating Scaleは,初診〜1カ月後にかけて有意差は得られなかったが(p=0.029),初診〜3カ月後にかけて有意に低下していた(p=0.005).考察:短期間での催眠群でのより有意な改善から,初診時の催眠による体験的気づきがめまい感の改善につながったと考えられる.この「体験的気づき」は,患者に対して,自覚した身体異常と慢性生めまいとの関連への気づきを強く促したと考えられ,失体感症へのアプローチとしての可能性が示された.