著者
佐々木 敏光
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.3, pp.131-151, 2021-05-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
4

本稿では,和歌山県椿山ダムの建設により水没移転を余儀なくされた人々が移転先をどのように決定したかを,属性,およびそれ以外の要因にも焦点を当てながら解明することを目的とする.ダム建設計画が発表されると,水没予定地区の住民は反対運動を起こしたが,すぐに条件闘争に切り替えた.補償交渉の過程での意見対立は人間関係の悪化を招き,地元ダム対策組織が分裂と再編成を繰り返す事例が見られ,移転先の意思決定に大きな影響を与えた.水没移転者のほとんどは,住み慣れた地域の近くに移転した.新たに仕事を見つけるには高齢で,そのため,移転前と同じ仕事に従事することを望んだことによる.林業経営者も,事業継続のため近隣地域に移転した.水没移転を人口移動の一つとしてとらえ,水没移転者の属性,人間関係等のファクターに注目しながら移転先の意思決定に至るプロセスの分析を行った結果,複数の移転パターンが明らかになった.