著者
佐竹 徹夫 柴田 和博
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.454-462, 1992-09-05
被引用文献数
6

小胞子の分化から受精に至るまでの発育過程を4段階に分け, それぞれの段階で受精に関係する要素(受精構成要素)を定義し, 受精率を4要素(分化小胞子数, 発育花粉歩合, 受粉歩合および柱頭上花粉の受精効率)の積によって表した. 危険期に冷温処理された穎花の受精率およびそれを構成する要素の大きさには, 品種間に顕著な差が認められた. 耐冷性の異なる19品種を用いて, これら要素の受精率に対する寄与率を重回帰分析法によって評価した. 危険期に冷温処理された穎花の受精率における品種間分散の82%が, 分化小胞子数, 発育花粉歩合および受粉歩合の3要素によって説明された. 第4要素の柱頭上花粉の受精効率(この要素は柱頭上における花粉の発芽歩合と発芽花粉の受精効率より構成される)は本論文では評価されなかった. 染分, 赤毛, キタアケ, 道北糯18号, 中母42号, はやゆき等は小胞子分化数が大きく, 染分, ハマアサヒ, キタアケ, トドロキワセ, はやゆき, コチミノリ等は花粉発育歩合が大きく, そらち, 中母42号, はやゆき, キタアケ等は受粉歩合が大きく, それぞれの要素の供与親として注目された. 受精構成要素の概念は, 耐冷性の遺伝子を各要素ごとに探索する手段として育種事業に利用できるばかりでなく, 耐冷性の生理機構を解析するための手段としても利用できる.