著者
佐竹 暁子 CHAVES L.F. LUISFERNANDO Chaves LUIS FERNANDO Chaves
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

防虫剤を練り込んだ合成樹脂を原料として糸を作りそれで織った蚊帳(insecticide treated net)の利用は、最近注目されマラリア感染を予防する目的で大きな効果を上げている。マラリアを媒介するハマダラカは主に夕方から夜にかけて活動するため、夜人々が蚊帳の中で寝ることができればハマダラカに刺されることもない。アフリカ西部におけるマラリア発症事例数が蚊帳導入後にどのように変化したかを示すデータをもとに、蚊帳利用における人々の意思決定に関するゲーム理論モデル「蚊帳ゲーム」を構築し分析した。蚊帳ゲームでは、各プレイヤーが「蚊帳をマラリア予防に用いる」戦略Tと「蚊帳を経済活動に転用する」戦略Fのいずれかを選択すると考え、戦略Tを選んだプレイヤーは自身のマラリア感染率を下げることができ(個人効果)、戦略Fを選んだプレイヤーは自身の労働生産性を上げることができる(転用効果)と仮定している。また、少なくとも一人のプレイヤーが戦略Tを選んでいるとき、蚊帳に塗布された殺虫剤の影響によりハマダラカの個体群密度が減少し、全プレイヤーのマラリア感染率が低下する(共同体効果)。共同体効果の強さは戦略Tを採るプレイヤーの人数に比例する。各プレイヤーの期待利得は、マラリア感染率と労働生産性から算出され、全プレイヤーめ戦略からなる組に応じて一意に定まるとした。蚊帳ゲームの解析から、自然状態におけるマラリア感染率が比較的低いとき、全プレイヤーが戦略FをとるAll-Fナッシュ均衡が成立し、比較的高いときには、全プレイヤーが戦略TをとるAll-Tナッシュ均衡が成立することが示された。また、自然状態におけるマラリア感染率が中程度のときには、戦略Tを採るプレイヤーと戦略Fを採るプレイヤーが混在するFree-riderナッシュ均衡が成立する。Free-riderナッシュ均衡では、戦略Fをもつプレイヤーが戦略Tをもつプレイヤーから供給される共同体効果に「ただ乗り」する関係Prasitologyに受理された。