著者
長谷川 修 佐藤 ひでこ
出版者
一般社団法人 日本病院総合診療医学会
雑誌
日本病院総合診療医学会雑誌 (ISSN:21858136)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.62-67, 2023-01-31 (Released:2023-05-31)

音楽演奏家ジストニアでは,高度な演奏を行うときのみに,目的外の筋に力が入り,巧緻な 演奏動作を阻害する。不適切な筋の使い方を繰り返すと,その感覚記憶が脳に刻み込まれ,ジストニアが悪化する。原点に戻って再学習することが,改善への早道と考える。この考え方を,ジストニアで苦しむ8名のピアノ演奏家に伝え,少なくとも5名はリサイタルを開くまでに 回復した。改善した演奏家の経験を詳しく記した。上述の考え方を行動に移すとともに,脳に 違和感が走った瞬間にピアノを弾く意思を中止して脱力することを繰り返した。さらに,指伸 筋を単独で使用する鍵盤リハビリを研究して実践した。ジストニア治療には誤作動している脳 を自分自身で修正することが必須である。脳機能の特徴を理解した上で,必要に応じて他の治療法も用いながら,焦らずに正しい分離運動を積み重ねることが改善への近道と考える。