著者
長谷川 修 佐藤 ひでこ
出版者
一般社団法人 日本病院総合診療医学会
雑誌
日本病院総合診療医学会雑誌 (ISSN:21858136)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.62-67, 2023-01-31 (Released:2023-05-31)

音楽演奏家ジストニアでは,高度な演奏を行うときのみに,目的外の筋に力が入り,巧緻な 演奏動作を阻害する。不適切な筋の使い方を繰り返すと,その感覚記憶が脳に刻み込まれ,ジストニアが悪化する。原点に戻って再学習することが,改善への早道と考える。この考え方を,ジストニアで苦しむ8名のピアノ演奏家に伝え,少なくとも5名はリサイタルを開くまでに 回復した。改善した演奏家の経験を詳しく記した。上述の考え方を行動に移すとともに,脳に 違和感が走った瞬間にピアノを弾く意思を中止して脱力することを繰り返した。さらに,指伸 筋を単独で使用する鍵盤リハビリを研究して実践した。ジストニア治療には誤作動している脳 を自分自身で修正することが必須である。脳機能の特徴を理解した上で,必要に応じて他の治療法も用いながら,焦らずに正しい分離運動を積み重ねることが改善への近道と考える。
著者
野﨑 哲 稲葉 基高
出版者
一般社団法人 日本病院総合診療医学会
雑誌
日本病院総合診療医学会雑誌 (ISSN:21858136)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.409-413, 2023-11-30 (Released:2023-12-08)

症例は70代男性。来院3年前, 右冠動脈病変, 左前下行枝病変に対し経皮的冠動脈ステント留置を施行された。ムカデ咬症後, 全身の紅斑と掻痒及び呼吸困難感を自覚し救急搬送された。ムカデ咬症によるアナフィラキシーと診断された。アドレナリン投与後も呼吸困難感持続し, モニター心電図上 II 誘導でST上昇認めた。12誘導心電図で II,III,aVf のST上昇を認め急性冠症候群を疑った。緊急冠動脈造影直前に心停止となったが心肺蘇生術で心拍再開した。冠動脈造影で右冠動脈の完全閉塞を認めた。以前に留置されたステント部に透亮像を認め,ステント留置処置を行った。本症例は虫咬症,アレルギー反応を契機にステント内血栓,いわゆるKounis症候群Type3を発症したと考えられた。虫咬症という比較的頻度の高い傷病でも,アレルギーからアナフィラキシー,急性冠症群を合併する可能性を十分に念頭に置き診療することが肝要である。
著者
増田 卓也 萩原 彰人 丸山 晃央 寺澤 佳洋 友岡 清秀 竹下 有
出版者
一般社団法人 日本病院総合診療医学会
雑誌
日本病院総合診療医学会雑誌 (ISSN:21858136)
巻号頁・発行日
vol.19, no.5, pp.367-373, 2023-09-30 (Released:2023-11-11)

近年,鍼灸治療の作用機序や治療効果のエビデンスが得られてきたが,日本は欧米と比較し医療機関における鍼灸治療の提供は普及しておらず,その適応や治療効果の認識も充分に浸透していない。また治療を依頼する鍼灸院との連携システムが未確立であり,適応であるにも関わらず治療の機会を失っている患者が多い。一 方で,鍼灸院へ通院している患者の一部には重大疾患が隠されているリスクが懸念されるも医療機関への紹介基準や紹介先の選定が困難であるという課題がある。それゆえこれらのミスマッチや見逃しのリスクを解消すべく,病院と鍼灸院の連携システム(病鍼連携)の確立が急務であると考えられる。そのためには,医師への鍼灸治療に関する教育や鍼灸治療の適応基準の明確化,連携可能な病院や鍼灸院の所在及び専門性が明確化されたネットワークの構築,鍼灸師への診断学を含めた臨床教育の場の構築, 医師と鍼灸師の積極的な交流が必要となる。
著者
森井 和彦 福永 智栄 多田 俊史 中村 進一郎
出版者
一般社団法人 日本病院総合診療医学会
雑誌
日本病院総合診療医学会雑誌 (ISSN:21858136)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.214-222, 2023-05-31 (Released:2023-10-19)

がんの治療方針は staging や performance status に基づいて決定されることが多いが,高齢者の場合は平均余命が短く,複数の併存疾患や加齢による脆弱性を認めることがあるため, 高齢者総合機能評価(comprehensive geriatric assessment;CGA)を行わないで治療を始めるのは危険である。高齢者の脆弱性は日常的診療では拾い上げが不完全であり,CGAでの評価が望ましい。多忙な日常診療ではまず G8 Screening tool で脆弱性の疑われる高齢者をスクリーニングして,該当者に CGA を行うのが効率的である。CGAでは検証されたツールを用いて,instrumental activities of daily living(IADL),併存疾患,転倒,栄養状態,化学療法の毒性の予測,がん以外の要因による平均余命, 薬剤関連の問題,認知障害,うつ病,社会的支援システムの不足などを評価する。近年使用頻度が増えている免疫チェックポイント阻害剤の 有益性・有害性の予測にもCGAが有効かどうかは,今後の課題である。