- 著者
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佐藤 ゆきの
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
- 巻号頁・発行日
- vol.74, no.2, pp.63-82, 2001-02-01 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 32
- 被引用文献数
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5
阿蘇北麓の小国町では,第二次世界大戦後かっての共有牧:野にスギ植林が積極的に行われた.それにより,多くの農家が戦前までは社会的地位の象徴であったスギを所有するようになり,「スギの町」との住民の認識が強められた.その一方で, 1960年代以降共有牧野の一部にクヌギ植林が展開されていく.クヌギが植林された背景には,まずシイタケ栽培のほだ木としての経済的価値の高まりがあった. 1960年代半ば,放置された牧野ではすでにクヌギの二次林化が進行していた.住民は,クヌギの経済的価値の高まりによって,その植林を主体的に選択したと認識している.しかしそこには,伝統的な生業の慣行と知識によって形成された広葉樹への意識や評価も大きく作用していることがうかがえる.こうした小国町の住民の生業活動選択の背景を分析するにあたっては,自然・政治・経済・社会的条件と住民の環境観との相互作用の考察が不可欠である.このよう一な小国町の住民の環境観は,近年の木材価格の下落や地域共同体の縮小などの中で,短期的な採算にとらわれずスギ・クヌギ林の維持・管理を続けさせる背景ともなっている.