著者
竹本 弘幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.71, no.11, pp.783-804, 1998-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
39
被引用文献数
1

片品川流域に発達する河岸段丘についてテフラ層序に基づき調査し,堆積物の分析を通じて火山活動の影響を明らかにした.片品川流域に発達する河岸段丘は,更新世中期の砥山面(To), 15~10万年前の沼田面(Nu),11~10万年前の追貝原面(Ok),6万年前の伊閑面(Ik),5万年前の平出面(Hi),3~1.5万年前の貝野瀬1~皿面(Ka-1~皿);1.3~1万年前の低位面(L)に分類される.砥山面(To),追貝原面(Ok)は,更新世中期に赤城山の火山活動によって多量の砂礫が供給された結果,形成された堆積段丘面群である沼田画(Nu)は,赤城山の活動によって形成された堆積段丘面で,約20万年前から最終間氷期を経て約10万年前まで存続した水域(古沼田湖)に形成されたと考えられる.古沼田湖の堆積物である沼田湖成層の層厚は最大約60mに及び,上流側では沼田礫層に層相変化する.沼田礫層は礫径が大きく,礫種構成において赤城山起源の礫が卓越する.これに対して,伊閑礫層以降には赤城山起源の礫の混入率が徐々に減少し,貝野瀬I礫層以降には30%以下となる.この傾向は赤城山の火山活動と調和的である.伊閑面は,最大層厚35mの砂礫からなる堆積段丘面である.本面の形成には,断ある程度火山活動の影響も認められるが,中部日本などに広く認められる気候性の堆積段丘面と同様の成因が想定される.粒径や礫種構成から判断して,現河床への赤城山の影響はほとんど認められない.
著者
阿部 一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.265-279, 1991-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
18

Changes in architecture reflect interactions among social groups, each of which seems to have a certain “meaning matrix” that is the implicit knowledge required for understanding the meaning of things. Disagreements over meaning matrices occasionally bring about laws regulating the style of architecture. In this paper, the author examines the relation between law and the architecture of Japanese “lovers' inns, ” which are inns with eye-catching facades and screened entrances, catering to couples for short-time or overnight stays, from the viewpoint of the interaction of two social groups; the owners of these inns and local residents. 1) The historical changes in lovers' inns architecture are as follows: 1950s: Inns displaying hot spring symbols were located in city centers. 1960s-early 1970s: Western-style architecture appeared, and “gorgeous” motels imitating Western castles or cruisers proliferated along suburban highways. Late 1970s-1980s: The appearance of love-hotels (lovers' inns located on urban streets) has become “subdued.” 2) The owners and planners of lovers' inns have had a tendency to use striking decor in order to attract people's attention. 3) Local residents have a desire to conceal things concerning sex, which results in demands for a “subdued” appearance and the exclusion of lovers' inns from residential areas. 4) Reflecting the viewpoint of local residents, regulations covering the appearance, the inside structure, and the location of lovers' inns have been established. 5) The relation between law, architecture, and meaning matrices is shown in Fig. 4. Owners and planners build the inns. Local residents perceive the inns' appearance through their own meaning matrix. When the architecture is not acceptable to the local residents, laws are established, which are implicitly recognized by them. The owners understand the laws and change the style of architecture.
著者
碓井 照子 小長谷 一之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.621-633, 1995-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
6
被引用文献数
2 4

Many studies are being conducted on the 1995 Hanshin-Awaji Earthquake from the earth science and architectural technological aspects, but urban structure is an important intervening factor link-ing causes and damages of an urban earthquake. This note will give a few insights from this point of view. The distribution of debris of collapsed structure clustered around (1) Suma-Nagata district, (2) Sanno-miya-Yamate district and (3) Nada-Higashinada district was analyzed; (1) and (3) are inner-city areas with many wooden houses, located 3 to 10 km from the central business district. Some network analyses are further performed usig GIS in the district of cluster (3). The number of arcs within a given road distance shows a characteristic decay caused by the earthquake, but its pat-tern varies by the distance band given. The fractal dimension of road network effectively summa-rizes this information. Calculation of the fractal dimension extracts many points either restricted by transportation facilities or river lines, or enclosed by debris as “dead ends”.
著者
高阪 宏行
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.483-497_2, 2000-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1

日本でも多くの活火山に対し火山災害予測図が作成されてきたが,この地図は火山災害の物理的状況を表すだけで,地域社会に与える被害を予測するものではない.火山災害予測図を基礎資料として,人口分布,道路・農地・公共施設などとの位置関係を探ることによって,初めて被害が予測できるのである.本研究は,浅間山の南斜面に発生する火砕流を事例として,GISを利用した防災計画支援システムを構築した.このシステムでは,火山災害予測図をもとに火砕流の流動範囲を噴火後5分以内,5分~10分,10分~15分,15分~30分に色分けして表示するとともに,火砕流のレイヤーと人口分布,道路,鉄道・高速道路,あるいは・学校・病院・ホテルなどのレイヤーとを重ね合わせることで,二っの分布の共通部分から被害予測図を作成した. 被害予測図を用いて被害を予測した結果,被災面積は2,529ha, 人的被害は約3,500人に及ぶことが明らかとなった.また,道路の被災区間は,約1.9kmの国道を含む34.5kmに及び,鉄道や高速道路にも10分~15分で火砕流が到達することが予測された.さらに,防災計画支援システムを利用レて,火砕流が覆う地区をリスク1の地区,その地区周辺で火災が延焼する可能性のある地区を500mバッファのリスク2の地区とし,火砕流に対する緊急計画地域として設定した.また,火砕流からの脱出計画,避難所の設置,避難民の収容計画,救援計画を考察した.
著者
福田 珠己
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.727-743, 1996-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
49
被引用文献数
1 8

本稿では,沖縄県竹富島において島を代表する存在である「赤瓦の町並み」が,どのように保存され今のような姿に至ったか,また,「赤瓦の町並み」が町並み保存運動の中で,伝統的建造物群保存地区という文化財としてどのように再生されていったか,伝統文化の創造という観点から考察する.町並み保存のプロセスを検討していくことによって,「伝統的」であると見なされている町並みが本来はいかなるものであるのか,さらに,「伝統的」であるとはいかなることなのかが,明らかになるのである. 本研究の視点は,文化と真正性,伝統文化の創造,観光と伝統をめぐる諸研究と共通するものであり,本研究で取り上げた文化財として位置づけられている伝統的町並みは,研究者・行政・住民の三者の思惑が絡み合ったところに生じたもので,近年注目されっっある「ふるさと」の文化,地域の伝統文化を考える上で,格好の素材でもある.
著者
谷口 智雅
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.642-660, 1997-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
43
被引用文献数
1

水質分析資料がない時代の水環境の復元方法として,本研究では文学作品中の水に関する文章に着目した.隅田川を中心とし,東京における文学作品中の水に関する生物指標および視覚的な表現を抽出し,それを現在行われている水域類型区分にあてはめ,20世紀前半の東京の河川の水質を推定した. 文学作品中の文章表現から推定した東京全体の水環境を見ると, 1920年頃にはすでに水質が悪化している河川や水路がかなり存在した. 1940年頃になると汚れた水域が増加しており, 1920年頃から1940年頃にかけて水質が一段と悪化していたことが,この方法により示された.同様の方法を用いて隅田川の水質を推定すると,すでに1905年には浅草付近で著しく汚れていた. 1915年になると,吾妻橋から清洲橋にかけて汚染が顕著で,白鬚橋や永代橋,佃大橋でも水質悪化を示すようになり,汚れた水域が拡大していた. 1935年になると,白鬚橋から永代橋にかけた全域で汚染が顕著になった.本稿では,得られた水質評価と土地利用あるいは工場数,人口変化との比較検討を行い,水質の悪化と人間活動が対応していることを示した.
著者
小口 千明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.638-654, 1994-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
46
被引用文献数
1 1

本研究は,位置選定にかかわる日本の伝統的な吉凶判断において方位がきわめて重要視されるのに対し,距離や寸法にはあまり関心がもたれないことに着目して,日本における伝統的な空間認識の特質を寸法とのかかわりから捉えようとしたものである. 沖縄県を中心として唐尺と呼ばれるものさしが存在し,このものさしを用いて,寸法による吉凶判断が行なわれている.そこで,現実の景観のなかにこのものさしに基づく吉凶の観念がどのように投影されているかを,沖縄県の波照間島と鹿児島県の与路島を事例として検討した. 沖縄県の波照間島では,住居の門の幅と墓の特定部分の寸法が唐尺による吉凶判断の対象とされる.奄美の与路島では唐尺は用いられていないが,唐尺と類似の目盛りを有するさしがねが門の位置と幅を定めるための判断基準として用いられている.両島内の集落で住居の門幅を実測したところ,それぞれの地域の判断方法に基づき吉寸を示すものが高率であった.これは,寸法に対する吉凶の観念が投影された住居景観が現実に存在することを示している.ただし,両島に方位にかかわる習俗が存在しないことを意味するものではない. 日本では,位置選定にかかわる吉凶判断において,空間の評価軸が方位に置かれる場合が多い.しかし,現在までのところ沖縄や奄美地方でのみ確認された例ではあるが,寸法の概念も評価軸として存在することが示された.理論的には方位も寸法もともに空間評価のための座標軸となりうるなかで,現実としてどの尺度が座標軸として選択されるかは地域によって相対的であるといえる.したがって,方位による吉凶を著しく重視した空間認識は,見方を変えれば寸法による吉凶を重視しない空間認識としてその特質を把握することが可能となる.
著者
岩間 信之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.117-132, 2001-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
33

本研究では,百貨店における取扱商品や併設施設の店舗間の差異に着目し,これらを定量的に分析することによって,百貨店の店舗特性と立地位置との関係を考察した.因子分析,クラスター分析の結果, 105の店舗は9類型に分類された.各類型の分布から,以下の点が明らかとなった.高次の中心商業地に立地する店舗は買回品へ専門化する傾向にあるが,郊外の店舗では最寄品の比重が相対的に高い.また,婦人服を指標として顧客の年齢構成と商品単価を考察したところ,都心に近づくにっれ顧客の年齢構成は若年化し,取扱商品は高級化する.さらに,郊外型の店舗は35km圏内ではショッピングセンター的な性格を有し, 36km以遠ではスーパーマーケットに類似する傾向がみられる.ま孝セクター間にも差異が存在し,買回品の卓越した店舗は南~北西郊に多く立地する.百貨店の店舗特性には,都心を核とした階層構造が確認された.
著者
福岡 義隆
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.12, pp.751-762, 1993-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23

まず始あに,最も古典的で著名ないくつかの文献と筆者自身の考えに基づいて,気候学と気象学の違いを論考する.気象学が人間不在でも成り立つ大気の科学であるのに対して,気候学は必ず人間の存在と密着した大気の科学であるとする.気候学をも含め自然地理学は,隣接の理工学の手法を取り入れるが,解析・理論的解釈の段階で人間的要素を色濃くもった地理学独自の哲学・思想が必要である. それゆえに,気候学は自然地理学の一つ,あるいは地理学そのものとしての存在理由があるはずである.その存在理由は'Physical-Human Process.Response'と称するW. H. Terlungのシステム論における5番目のカテゴリーによって確信づけられる.筆者はそのようなcontrol systemの説明のために3っの具体的な気候学の研究例を紹介した.その一つはW. H. Terlungが論じているように“都市気候学”の研究である.ほかの一つは“災害気候学”に示され,そのうちの一つとして年輪に記録される干ばつの気候に関する研究を紹介した. 3つ目は“気候資源に関する研究”で,これも最も地理学的な気候学の一つと考えられる.というのは,それらの研究が自然エネルギー利用の伝統的方法における気候学的考えに拠るものであるからである.最後に,いつまでも他分野に仮住まいすべきではなく,気候学という現住所にいて地理学という本籍(本質)を全うすべきことを主張した.
著者
渡辺 満久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.734-749, 1989-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
69
被引用文献数
2

北上低地帯は,その西縁を逆断層に限られる典型的な構造性の内陸盆地であり,鮮新世以降に奥羽山地から分化してきたと考えられる.北上低地帯は活断層,第四系基底面の形状,および地質構造によって, O-typeの地域 (同低地帯の北部と南部)と hypeの地域 (中央部)とに分類される. O-typeの地域では,新第三系,第四系基底面,および第四系 (厚さ数丁十程度以下)に東方へ緩く傾斜する構造が認められる.この地域の西縁部は,活断層がきわめて直線的であることから,比較的高角の逆断層で限られると推定される. I-typeの地域では,第四系基底面は西縁の活断層系に向かって数度以内の傾斜で一方的に傾き,第四系の層厚は奥羽山地では 200m以上に達する.西縁部には東へ凸な多数の活断層線が認められることから,低角の逆断層から成る複雑な断層系が形成されていると考えられる. これらの構造的な特徴と,半無限弾性体に対する食い違いの理論に基づく計算結果から想定される地震時の地殻変動,および地殻とマントルの非弾性的な性質に起因して地震後に現われる地殻変動とを比較した.その結果,西縁断層系への傾動が認められる 1-typeの地域では,断層活動によって低地が奥羽山地から分化してきたと結論した. 0-typeの地域に認められる構造を得るには,地表で確認できる断層活動以外の要因を想定する必要がある.

8 0 0 0 OA 文献等

出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.327-330,391_7, 2000-04-01 (Released:2008-12-25)
著者
呉羽 正昭
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.818-838, 1991-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
16
被引用文献数
2

本研究の目的は,群馬県片品村におけるスキー観光地域,とくに1970年代までのスキー観光地域が, 1980年以降どのように変化してきたかに注目して,その形成の諸特徴とそれにかかわる条件を明らかにすることである. 片品村では, 1970年代までに,規模の小さい8つのスキー場が,伝統的利用が行なわれていた共有林野のなかに開設された.スキー場の開設に伴い周辺地域では民宿が開設され,またスキー場の冬季臨時従業員といった雇用機会がうまれた.住民は,スキー場に関連した新しい就業を取り入れ,それに,夏季の農業,林業および建設業を組み合わせるようになった. 1980年代になって,スキー場ではペアリフトなどの新しい施設の建設が進み,入込客,とくに首都圏からの週末の日帰り客が急増した.一方,周辺地域では,スキー場関連産業が重要な位置を占あている.片品村では,高速道路開通による首都圏からの近接性の向上,面積拡大を可能にした林野所有形態といった条件をいかしながら,スキー観光地域は, 1980年以降大きく発展してきた.そこでは,スキー場の入込客許容量が増加し,また多種類の宿泊施設が存在することによって,スキー客の多様な需要に対応してきた.
著者
山内 昌和
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.12, pp.835-854, 2000-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
19
被引用文献数
2

本稿では,縁辺部における人口や世帯の再生産が行われている例として,漁業が基幹産業となっている小離島の中から小呂島を取り上げ,戦後の世帯再生産のメカニズムを明らかにした.小呂島における世帯再生産は,漁業労働力の確保という経営体の戦略と,世帯維持に対する規範意識に代表される社会的な制約の双方が深く絡み合いながら行われていた.その際,イノベーション導入による漁業生産の拡大は経済的な保証を与え,一方で社会的制約は小呂島出身者に対し大きな影響力を有し,世帯再生産を支える要因の一つとなっていた.今後は,婚姻形態の変化などの社会的理由から若干の世帯数の減少が予想される.しかしながら,他地域た比べて漁業資源獲得に際しての相対的優位性が続くと想定されるため,今後とも一定の世帯数が再生産されていくであろう.
著者
石黒 直子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.415-423, 2001-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28
被引用文献数
1

長野県中部に位置する諏訪湖で起こる御神渡りは宗教的に重要な現象であったため,その記録は550年以上にわたりほぼ途切れることなく継続する.そしてこの記録は冬季の気候復元のための貴重なデータとして注目されてきた.本研究では,この記録を使用するのに際し,重要な問題となるデータの均質性にっいて,・データソースの歴史的変遷の観点から検討を行った.その結果,諏訪大社管轄の記録の中でも,データソースの変化に伴い内容に相違がみられた.とくに,15~17世紀にかけての御神渡りの観測基準が現在と異なり,氷の割れる音を聞いて観測していた可能性が示唆された.さらに近年の気象観測データに基づいた解析から,諏訪大社と諏訪測候所による結氷日の観測基準が異なることに由来する,両者の結氷日の質的な違いを明らかにした.これらの違いに留意してこのデータを使用することによってより精度の高い気候復元が可能になるであろう.
著者
谷 謙二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.263-286, 1997-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
5 8

本稿は,戦後の大都市圏の形成とその後の郊外化を経験した世代に着目し,その居住経歴を詳細に明らかにしたものである.方法論的枠組みとしてライフコース・アプローチを採用し,名古屋大都市圏郊外の高蔵寺ニュータウン戸建住宅居住者 (1935~1955年出生)を対象として縦断分析を行った.その結果,移動性が最も高まる時期は離家から結婚までの間であり,さらに離家を経験した者の多くが非大都市圏出生者であった.大部分の夫は結婚に際しては大都市圏内での移動にとどまるのに対し,妻は長距離移動者も多く,中心市を経由せずに直接郊外に流入するなど,大都市圏への集中プロセスは男女間で相違が見られた.結婚後の名古屋大都市圏への流入は転勤によるものであり,その際は春日井市に直接流入することが多い.それは妻子を伴っての流入であるために,新しい職場が名古屋市であるにもかかわらず,居住環境の問題などから郊外の春日井市を選択するためである.
著者
久保 純子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.25-48, 1988-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
51
被引用文献数
1 2

南関東の相模野台地・武蔵野台地に分布する谷の地形・地質を比較検討し,これらの谷の形成過程について考察した. 相模野・武蔵野をはじめとする関東平野の台地には,台地上に厚い風成テフラをのせるものが多い.これらの台地では現在までの数万年の間,テフラの問けつ的な降下と,台地に流域をもつような小さい川の侵食・運搬作用が同時に進行していたと考えられる.このような堆積(テフラの降下)と侵食・運搬作用(谷の成長)の積分の結果が現在の相模野・武蔵野台地の谷地形であること,すなわち,礫層を堆積させた過去の大河川の名残川が降下テフラを流し去ることによって谷を形成したことを,相模野および武蔵野台地の各時代の面を「刻む」谷の地形・地質を比較することにより導き,谷の形成過程を説明した.