著者
佐藤 節子
出版者
岐阜大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

私は1994年度、液全体が半透明の糊状に固化するという状況が示される硫酸水素テトラメチルアンモニウムと水の二成分系で、共融点以下の温度で存在しているガラス状態あるいは凍っていない液体状態について、さらに詳しくこの系の特徴付けを行なうために、示差熱解析により上記の塩と重水の二成分系の相図を調べた。これにより、重水との二成分系では、軽水との二成分系と異なり、ガラス転移とそれに引き続き起こる低温結晶化を示す熱異常は現われず、明らかな重水素効果が存在することを突き止めた。これについては、さらに軽水素と重水素の割合を変えた場合についての結果とともに、分子構造総合討論会(1994年9月、東京)で報告している。以上のように、軽水との二成分系において状態の変化が起こる場合の、ミクロな内部の動的構造に関わっている水分子とH^+イオンの運動と、中に溶けているテトラメチルアンモニウムイオンの再配向運動の励起過程について、また、重水との二成分系の場合のそれらの運動の在り方を調べるために、^1HNMRのスピン-格子緩和時間、スピン-スピン緩和時間の測定を行なった。その結果、軽水との二成分系では、共晶点以下でも、中に溶けている陽イオンと共にプロトンはかなり動いており、"液体的"とも言える状態であるのに反し、重水との二成分系では、その様な挙動とはなっていないことが明らかになった。これらの結果については、近々、投稿する予定である。本研究により、生体内部に存在する水の動的構造への重水素の影響に関して、手掛かりが得られた。