著者
佐藤 茉莉恵
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.100-107, 2016-09-30 (Released:2016-10-22)
参考文献数
32

目的:本研究は,高齢者において甲状軟骨部皮膚牽引が嚥下運動にどのような影響を及ぼすかを調べる目的で行った。 方法:嚥下リハビリテーション外来受診中である65歳以上の患者18名を対象とした。検査方法は嚥下造影検査とし,被験食品は40%W/Vバリウム液5 mlを中間のとろみに調整したものを使用した。検査は90°座位,頸部中間位で側面から撮影した。被験者に,検査者が指で前上方に甲状軟骨部の皮膚を最大量牽引した状態でバリウム液を摂取させ,牽引していない状態と舌骨位置,舌骨運動,食道入口部開大時間および開大量の比較を行った。 結果:舌骨運動において,牽引時に挙上前進時間の短縮,および停滞時間の延長がみられた。また,舌骨位置は牽引により安静位・嚥下反射終了位で前上方向へ,嚥下反射開始位・最大挙上位で上方向へ有意に変化した。嚥下反射開始から嚥下反射終了までの舌骨移動量は牽引時のほうが有意に小さかった。食道入口部開大時間と食道入口部開大量は,牽引時のほうが有意に大きかった。 結論:甲状軟骨部皮膚牽引により嚥下反射開始時の舌骨の位置が上方に変位し,最大挙上位までの移動距離が短くなった。運動距離の短縮は,同じ筋力でもより短い時間で最大挙上位に達することを可能にし,挙上時間の短縮にも寄与したと考えられる。嚥下障害患者において,甲状軟骨部皮膚牽引という外力を加えることで舌骨挙上を代償的に補償できる可能性があると考えられた。