著者
佐藤 達樹 千木良 雅弘 松四 雄騎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2016年4月16日に熊本県熊本地方を震源とする地震(Mw 7.0)が発生し,最大震度7を観測した.震度6強の強い揺れに見舞われた阿蘇カルデラ西部地域では,多くの斜面崩壊が発生した.テフラからなる斜面で発生した斜面崩壊は,緩傾斜斜面で発生し,また,長距離流動した.さらに,これらの崩壊のすべり面の形成された層準にはいくつかの種類があり,調査を行った崩壊地においては,風化した軽石層にすべり面を形成したもの(軽石の崩壊)が最も多く確認され,黒味を帯びた火山灰土層にすべり面を形成したもの(火山灰土の崩壊)が次いで多く,風化した火山灰層やスコリア層にすべり面を形成したものも確認された.そこで,本研究では軽石層および火山灰土層にそれぞれすべり面を形成した崩壊に着目し,これらの崩壊メカニズムを明らかにするために崩壊地の地形・地質的特徴,各層の鉱物組成および物性を検討した.​ 調査地域の基盤は玄武岩から流紋岩までさまざまな組成をもつ溶岩流や火砕岩から構成され(小野・渡辺,1985),テフラに厚く覆われている.渡辺,高田(1990)によると火山灰土(Volcanic soil)は色調によって分類可能であり,本研究では黒色を呈する黒ボク(Bl),黄褐色を呈する赤ボク(Br),そして,両火山灰土の中間の色調を示す暗褐色火山灰土(Blackish Brown Volcanic soil, BlBr)の3つに分類した.また,調査地域で最も広く分布する軽石は草千里ヶ浜軽石(Kpfa)と呼ばれ,約30000年前に草千里ヶ浜火口から噴出した(宮縁ほか,2003). 軽石層または火山灰土層にすべり面をもつテフラ斜面の崩壊には,共通してすべり面付近にハロイサイトが存在した.軽石の崩壊において最も多くすべり面が形成された軽石層は,草千里ヶ浜軽石(Kpfa)層であり,そのすべり面は風化により粘土化した層に形成された.火山灰土の崩壊においてはBlBr層に最も多くすべり面が形成され,崩壊地内にすべり面の露出する箇所には乾燥亀裂が発達しており,高含水の粘土層がすべり面となったことが分かる.さらに,火山灰土にすべり面を持つ崩壊地にはKpfaをはじめとする明瞭な軽石層が存在しなかったことから現段階では,Kpfa層がテフラ斜面の崩壊において最もすべり面形成層となりやすく,Kpfa層がない場合にBlBr層にすべり面が形成された可能性が考えられる.Kpfa層がない理由の可能性としては,もともと堆積しなかったか,堆積の後に地すべりによって取り去られたことが考えられる.堆積しなかったとすると,その理由としては斜面が急すぎたこと,あるいは軽石の給源からの供給が少なかったことが考えられる.