著者
佐藤 髙司
出版者
共愛学園前橋国際大学
雑誌
共愛学園前橋国際大学論集 (ISSN:2187333X)
巻号頁・発行日
no.23, pp.1-12, 2023-03-31

本論文は、大学における方言の保存・継承活動の1つのあり方を具体的に提示した実践報告及び考察である。方言の保存・継承活動は、方言が各地で異なるようにその地域や教育機関によって異なる様々な課題を有する。本実践における方言かるた制作の過程・手法では、群馬県という地域であることを考慮し小規模私立大学という研究機関に応じた工夫を施すことで課題の解決を試み実践が可能になったと考えられる。本論文では「ぐんま方言かるた」制作の過程を示したうえで、環境(言語・文化)、資金、連携・共同の面から制作の課題を示しその課題解決について方言研究や大学教育との関係から考察を行った。環境(言語・文化)面では、読み札の制作において方言辞典が存在しないことを群馬県方言研究の今後の課題としてとらえる一方で、かるたが盛んな群馬県特有の県民文化や志向が本企画・制作に優位に作用したと考察した。資金面では、その工面が最大の課題であるとし、本制作においてはその目的に地域教育への貢献と学生主体の活動への支援を掲げることで、地域共生と学生主体をモットーに掲げる私立大学において支援が得られやすくなり企画の実施・完成にまで至ったと評価した。連携・共同面では、方言かるたの商品化において異なる研究分野間の連携・共同は欠かすことはできないものであり、それゆえ研究者間の教育観の相違などが課題ではあるものの、小規模大学ならではの密な教員関係を生かした研究者間の連携・共同により課題解決に至ったと考察した。方言の保存・継承を目的とし、方言かるたを制作して商品化する学生プロジェクトを教育界や社会が受容するかということ自体が、方言教育や方言研究にとっては課題である。その意味で本実践は地方の小規模大学からの小さな挑戦とも言えるが、方言を楽しんだり方言に価値を認めたりする現代社会や多様化の時代が、本実践を根底で力強く支えてくれたと考える。
著者
佐藤 髙司
出版者
共愛学園前橋国際大学
雑誌
共愛学園前橋国際大学論集 = Maebashi Kyoai Gakuen College ronshu (ISSN:2187333X)
巻号頁・発行日
no.15, pp.115-122, 2015

本稿では、母語を日本語とする児童生徒への方言教育には、方言の保存継承を目的とするもの、共通語教育を目的とするもの、言語教育の基礎づくりを目的とするものの三つがあることを述べ、そのうちの言語教育の基礎づくりを目的とする方言教育の小学校における具体的指導案例(単元例)を提示する。国立国語研究所主催の学術国際フォーラム「日本の方言の多様性を守るために」は、平成22(2010)年12月18日(土)に開催された。このフォーラムでは、4人のパネリストが各言語・方言が置かれている現状を報告し、ことばの多様性を守ることの重要性について、パネルディスカッションが行われた。本稿はこのパネルディスカッションから多くの示唆を得た。本稿では、母語を日本語とする児童生徒への方言教育のうち、言語教育の基礎づくりを目的とする方言教育について論じる。言語教育の基礎とは、様々な言語を様々な言語体系としてとらえることができる感覚やセンスのことである。言語教育の基礎づくりとは、その感覚やセンスを磨くことである。この言語教育の基礎づくりを目的とする方言教育には、日常使用している日本語を用いて行うことができるために、低年齢の子どもから対象に行うことができるという最大の利点がある。本稿で示す指導モデルは、小学校の低・中・高学年の3学年からなる。低学年では、方言かるた遊びを通して、自分自身が使用している言語が一つの言語体系であり、その他にも異なる言語体系が存在することを無意識のうちに感覚として意識させるねらいがある。中学年では、低学年において無意識的に感じた異言語体系を作為的にその存在を意識させるねらいがある。高学年では、地元の方言かるたをつくる活動を通して、自方言を一つの言語体系として明確に意識させるねらいがある。研究ノート