著者
佐野 正俊
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.56-65, 2012-01-10 (Released:2017-08-01)

太宰治「猿ヶ島」の教材としての価値を、「物語」としての「おもしろさ」にあるとまずは押さえる。その上で、教室の初読の段階において「物語」のレベルで読み、その「おもしろさ」を十分に味わう。次に再読の段階で、一人称の「私」という語り手が気づいていないことを批評的に読んでいく。このような指導過程によって、本作品はこれまでとは大きく違った相貌を見せてくるはずである。
著者
佐野 正俊
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.1-8, 2000-08-10 (Released:2017-08-01)

「カンガルーの赤ん坊」を見たい、という「彼女」の希望を叶える「僕」という人物の誠実さへの共感という、作品の「プロット」をなぞることによって生じた初読の<読み>は、作品の<再読>による「<メタプロット>」の捕捉によって顕現してくる「僕」という人物の<自己合理化のシステム>と<他者の自己回収の戦略>の問題とが衝突し、読み手のうちに葛藤を生じさせる。その葛藤こそが読み手の既存の価値観にゆさぶりをかける<小説の力>である。
著者
佐野 正俊
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.57-65, 2010-08-10 (Released:2017-08-01)

本教材の物語としてのおもしろさを読んでいく、という五十嵐淳の教材研究に厚みを加えることを期して、「彼女」の物語を入れ籠とする<語り>が生成する「僕」の物語をあぶりだし、そのことによって「バースデイ・ガール」の教材価値をさらに引き出すことを試みた。これらのことは、登場人物の像の分析と総合を繰り返す「形象よみ」では行えない。なぜなら、登場人物の像を帰納法的に抽出し、登場人物が「象徴するもの」を読む「形象よみ」では、登場人物の出来事を読むことはできるが、小説の<語り>が生成する「僕」の物語を読むことはできないからである。小説の教材研究は、<語り>の仕組みに沿って行われるべきであると考える。