- 著者
-
保田 和則
- 出版者
- 大阪大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2006
微小流路内における流れによって誘起される高分子流体の内部構造変化について調べた。この測定のために独自の光学系を構成し,微小流路内において100μmステップの高い空間分解能で複屈折を測定することができた。また,速度分布も測定した。複屈折は流動による内部構造の変化と密接に結びついているので,複屈折分布と速度分布を知ることで,流動による構造変化を定量的に知ることができた。流れ場として微小円柱まわりの流れと急縮小流れとを取り上げた。その結果,円柱上流部の減速流れ場では円柱に近づくにつれて高分子の分子配向が流れと直交する方向に向くことで,いったん配向の程度が低下するが,円柱のすぐ上流部で高い配向度を示した。それに対し,下流部の伸長流れ場では下流に流れるにつれ配向度が急激に上昇し,内部構造の変化が伸長流れ場に大きく影響されることが明らかとなった。微小領域において光学的測定により流動誘起構造の変化を明らかにしたことはたいへん重要である。次に,ナノスケールの微細繊維からなるバクテリアセルロース(以下ではBCと称す)を分散させた流体の流路内流れについて検討した。4:1の急縮小部を有する矩形断面の流路内における流れを可視化し速度分布を計測した。急縮小部から十分に上流にある位置では,グリセリンは放物線状の速度分布を示すが,BC流体では中央部が平らになったプラグフローに近い速度分布となった。またBCの濃度が上昇すると,さらに台形に近い速度分布となった。また,急縮小部でも同様の傾向が見られた。急縮小部の上流角部に生じる循環二次流れの流れ方向の大きさを調べた。その結果,BC流体ではグリセリンよりも大きな渦となり,またBCの濃度が上昇するとともに渦も大きくなった。これはBC流体の伸長粘度特性に起因する現象であると考えられる。この研究ではナノファイバー分散流体の流動を初めて明らかにした点で重要な結果を得た。