著者
中井 勇 光枝 和夫 大畠 誠一
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.1-18, 1995-12-25

本論文はマツ属の種間交雑の可能性から, 種間での生殖的隔離と地理的隔離を考慮して類縁関係を再検討し, さらに, 近年わが国におけるマツ枯れ被害対策と関連して, 創出されたF_1雑種の抵抗性やその生育状況について論議した。1. 種間交雑はマツ属の分類学上の亜節内では成功例が多く, 亜節間での成功例は僅かで, 種の生殖的隔離と分類学上の位置付けはほぼ符合した。しかし, 同じ亜節内において交雑の失敗例があり, 地理的な隔離等を考慮するといくつかの種群に区分することが可能であった。Sylvestres亜節は, アメリカ東部に分布する種とヨーロッパ地域に分布する一部の種群, 地中海沿岸地域に分布する晩成球果種群, 東アジア地域に分布する種群およびP. merkusii (1種) の4グループに細分できた。Australesでは, 成熟球果が閉果 (晩成球果) の種群と開果の種群に区分され, Contortaeでは地理的に隔離する2種群, さらにOocarpaeではメキシコ地域とアメリカ西部地域の2種群に区分できる。これらの区分は種分化と密接に関係するものと理解された。2. 上賀茂試験地で創出された雑種は, P. thunbergiiを雌性親とした種間で8種, P. densifloraとの種間で1種, P. taeda × P. rigidaの両面交雑の2種, P. viginianaとの種間で1種, P. muricataとの種間で2種の合計14種である。これらの雑種の中でマツ枯れ被害に対する抵抗性種と考えられるものは, P. taeda × P. rigidaの両面交雑種及びP. virginiana × P. clausaがあげられる。わが国の在来種との間ではP. thunbergii × P. tabulaeformisが抵抗性を示しており今後の生育が期待される。