著者
井上 明星 濱中 訓生 板橋 健太郎 井本 勝治 山﨑 道夫 坂本 力 八木 勇紀
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.9, pp.793-798, 2013-09-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
10

症例は54歳の男性。30歳時にC型肝炎を指摘されたが放置していた。2時間前から徐々に増強する心窩部痛を主訴に来院した。血圧88/58mmHg,脈拍57/分であった。身体診察にて,心窩部に圧痛を認めた。血液検査では肝臓逸脱酵素および胆道系酵素の上昇と軽度のビリルビン上昇を認めた。腹部単純CTでは右肝管から総胆管内の出血を,造影後は肝右葉優位に多発する濃染腫瘤を認め,肝細胞癌破裂により生じた胆道出血と診断した。内視鏡的胆道内血腫除去を行い,心窩部痛の改善を認めた。さらに入院3日目に再出血予防および肝細胞癌の治療を目的として肝動脈化学塞栓術(transcatheter arterial chemoembolization: TACE)を施行した。症状は改善し入院24日目に退院となった。2か月後,5か月後に残存腫瘍に対してTACEを行ったが,7か月後に肝不全で永眠された。胆道出血の治療方針の柱は止血と胆道閉塞解除であり,出血速度に応じていずれを優先させるかを判断する必要がある。