著者
八木 真奈美
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.162, pp.50-65, 2015 (Released:2017-12-26)
参考文献数
37

近年,日本語教育研究においても質的研究の重要性は高まっている。本稿の目的は,ナラティヴという視座から質的研究方法の一つとしてのエスノグラフィーの新たな展開を示すことである。それに先立ってまず,ここで扱うエスノグラフィーは,単なる調査や分析の手順を指すだけではなく,認識論的な世界の見方に関わるものだということを述べる。次に,エスノグラフィーの分析プロセスを示した後,ナラティヴとの融合による新たなエスノグラフィーの展開を,筆者の研究を再考する形で示す。結論として,質的研究の調査や分析の方法は,自らの依って立つ解釈の枠組みを明示し,対象となる人や集団の理解を目指した上で,何を明らかにしたいのかによって多元的に選択し,組み合わせていくことができると考える。それにより,人間と言葉の複雑な関係をより深く捉えられる可能性が生まれることを主張したい。最後に,日本語教育における質的研究の意義について述べる。
著者
八木 真奈美 池上 摩希子 古屋 憲章
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.404-423, 2019-12-31 (Released:2020-03-10)

本稿は,研究は「生きるために学ぶ人々の要求に応えるもの」でなければならないという問題意識から,移住者が語ったナラティブをリソースとする教材を作成するに至ったプロセスとその意義,並びに作成した教材を使って行った実践について述べる。移住者が語ったナラティブを教材化する目的は,以下の3点である。すなわち,学習者個人のナラティブを(1) 社会に向けて開くこと,(2) それによって日本語教育に対する意味付けを変革すること,(3) それを学習者自身の未来につなげること,である。教材を作成し,実践を行った結果,実践後のワークシートやインタビューから,語りによる移住者へのエンパワーメントや移住者間での経験の共有などが見られた。また,教員養成講座での実践では,受講生の気づきが促され,未来の変化への期待が持たれた。