- 著者
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田島 充士
古屋 憲章
- 出版者
- 言語文化教育研究学会:ALCE
- 雑誌
- 言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
- 巻号頁・発行日
- vol.16, pp.260-278, 2018-12-31 (Released:2019-05-12)
ロシアの文芸学者・M. M. バフチンのダイアローグ(対話)論を教育実践研究に応用するトレンドは,筆者が専門とする教育 ‐発達心理学において,すでに定着している。実際,バフチンは中等学校の教員として教鞭を執っていたこともあり,教育場面においてみられる具体的な諸現象に対する,彼の議論の解釈力・説明力はかなり高い。しかしバフチンのいう「ダイアローグ」は,慣れ親しんだ仲間同士の会話というよりもむしろ,異質な文化的背景を持つ他者同士のコミュニケーションを志向する概念である。このダイアローグ概念の特殊性を理解せずに,具体的な事象の説明に適用しては,バフチン理論が本来持つ,豊かなポテンシャルを活かしきることはできないように思う。本論では,異文化交流の可能性を拓くという視点から,バフチンの議論を読み解く。また関連する実践研究にも触れ,教育実践の豊かさを理解する上での,バフチン論の魅力について紹介する。