著者
内海 真希 春山 成子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.72, 2003

1.はじめに(背景) わが国の環境問題を解決するためには、廃棄物投棄・処理による汚染をいかに抑制するかが大きな問題である。産業廃棄物は都市部で大量に排出される一方で、周辺地域の近郊農村あるいは遠隔地農村へと運ばれながら処理・処分される過程で、大気・土壌汚染など自然・生活環境に多大な悪影響を及ぼしている。とりわけ、首都圏近郊において、所沢周辺(「埼玉県西部地域」)には、最も多くの産業廃棄物処理業者が長期にわたって集中してきたため、ダイオキシン問題が発生した。 局地的で大きな環境汚染を引き起こす産業廃棄物の集中を抑制し、問題の早期解決を図るために、こうした立地・集中の空間要因を分析し、把握することが不可欠であると考える。2.研究目的 産業廃棄物集中の要因を、都市近郊農村地域における農業的土地利用変化と、「土地」に帰属する社会的な要因を軸に評価する。具体的には、_丸1_立地要因として、産業廃棄物の集中・分布形態と土地環境(土地利用・市街化調整区域ほかゾーニング)との関係 _丸2_社会要因として、産業廃棄物業者の集中に大きな影響を与えた、地域内の土地税制などの個別農家の土地問題および、共有地としての入会林野についての問題等を明らかにする。3・対象地 首都圏30km圏にある所沢市と隣接市町村(川越市・狭山市・三芳町など)。産業廃棄物処理業者が日本で最も多く密集して集中している地域である、三富地域と関越道所沢IC周辺を対象とした。4.研究方法 社会問題を生じさせることになった、産業廃棄物処理施設・不法投棄の分布調査を行い、最近20年間を時間軸として分布域を特定する。得られた分布データと周辺の細密数値情報(10mメッシュ土地利用)との関係をGISにより分析し、ヒアリングや統計資料とあわせて、土地環境から立地(集中)要因を明らかにする。 さらに、埼玉県庁・所沢市役所などの自治体や所沢の農業従事者・周辺住民へのヒアリングや行政資料調査から、立地のプロセスと要因を総合的に把握し、その中で特に土地問題に焦点を当てて、社会要因を分析する。5.考察 産業廃棄物処理施設の立地には、「排出地からのアクセス」と「業者による用地取得」が容易であることが前提となる。まず、所沢地域は「関越自動車道」や「川越街道」に隣接し、排出地・東京から大量の産廃を大型のトラックやダンプカーで運搬してくるには都合がよい環境にある。また、高速道路のインター(所沢IC)の存在は、東京からの産廃の出口の機能としてだけでなく、一度中間処理や保管積み替えを経て、北関東や東北地方の最終処分場へと送り出すルートの「入口」としても機能してきた。さらに、地元住民(農家)による土地所有の維持困難から、「業者による用地取得」の容易性が確保される。そのような土地所有に関する問題として、農業形態の変化による平地林の管理放棄と荒廃化、入会形態の消失による個人所有形態の卓越、さらに相続税問題・農業外収入確保の必要性、といった問題が複雑に絡み合い、それらによって平地林や一部農地の売却・賃貸を余儀なくされる。それらに加え、業者による土地取得と操業を容易にするのが、「市街化調整区域」のゾーニングである。「市街化を抑制すべき区域」である調整区域内では、商業施設や宅地開発が法制度上難しく、地主にとっても宅地開発に面倒な手続きがかかる」が、例外的に建設できる「第一種工作物」や大規模な開発を伴わない小規模な焼却炉は許可を必要としなかったことが業者にとって、産廃施設誘致に好都合であったといえる。